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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第44回

セルフパブリッシングの未来(4)

セルフパブリッシングは集まって強くなる――群雛・鷹野凌さんの場合

2014年06月13日 18時00分更新

文● まつもとあつし

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福袋みたいな電子雑誌

―― 執筆陣は毎回広く募っているということですが、条件などありますか?

鷹野 「毎号、巻頭のゲストコーナーを除いて、特にテーマを決めて作品を募るということは行なっていません。幅広いストアで扱ってもらう関係でR-18作品はお断りしているのですが、基本的にジャンルや表現も自由です。

 編集のリソースや紙版も出す以上、ページ数に制限がありますが、こちらで作品を選別することもありません。読者の方からは『毎回福袋みたいだね』って言われたりします(笑)。

 参加はもちろん無料ですが、KDPなどのセルフパブリッシングをやってみたことがある方、イラストであればpixivなどで自分の作品を発表した事がある方に限らせていただいています。巧拙は問いませんが、経験は問う形です。

 群雛にご参加いただくには、まずGoogle+の独立作家同盟のコミュニティに加わってもらう必要があります。そして、そこで活動内容の自己紹介をしてもらっています。そして、群雛への参加希望があったとき、過去の活動内容が条件を満たしているかどうかをチェックしています。とはいえ、その“経験”のハードルはさほど高いものではないです」

―― かなり自由度が高いですね。しかし、そうなると逆に編集面で苦労することはないのでしょうか?

鷹野 「群雛では参加も早い者勝ちなのですが、掲載も“入稿順”になっています。従来雑誌では、作品の並べ方も編集部の裁量で行なわれることが多かったのですが、電子であれば目次でジャンプできてしまうので、そこも割り切りました。

 1号あたり約3週間、私も含め数人で作業することを考えると、『あの作品を待って、この作品をその後ろに』ということをやっている余裕もないので。それに入稿順なら、『どうして僕の作品があいつのより後ろなんだ』っていうこともありませんからね(笑)。

 そういう風に、できるだけスムースに事が運ぶようにルールを決めてあり、サイト上に事細かなレギュレーションも公開してあるのですが、読まずに参加してくる方もいて、悩ましいところです(笑)」

「価格や編集方針など、あえて“逆”を行っています」(鷹野氏)

―― 普通、同人でも雑誌を作ろうとなると、何か味や特色を出そうという欲が出てきそうなものですが、そういった部分が少ないのが却って特徴なのかもしれないですね。

鷹野 「そうですね。先ほど、単価も敢えて安くしなかったと言いましたが、編集という面でも過去の事例の逆を行こうという気持ちはありましたね。

 群雛を立ち上げる前、ハフィントン・ポストの日本版を取材したときに、一緒にお伺いしたマガジン航の仲俣暁生さんから“弱い編集・強い編集”という考え方が紹介されて、とても印象的だったんです。

 ネットワークの時代にあっては、紙の雑誌のような強い編集ではなく、弱い(緩やかな)編集が適しているのではないかと。それは念頭にあったと思います。電子であるならば、多種多様なものがそこにあってよく、そこに集まっていることに価値があるんだと」

群雛から生まれる可能性

―― 群雛というインディーズの場から、プロとしてデビューにつながるような動きはあるのでしょうか?

鷹野 「群雛に掲載された作品が、というわけではないのですが、創刊号から参加され、2号からは編集も手伝っていただいている晴海まどかさんが、先日ライブドアブログとimpress QuickBooksの『ライトなラノベコンテスト』で、特別賞を受賞されました。

 もともと、テクニカルライターをされていて、書く力は持っておられたということもありますが、Google+のコミュニティもお祝いメッセージ一色になりましたね。晴海さんのように群雛を経てデビューされる作家さんがさらに出てくることを願っています」

―― なかなか、自分一人で作品を発表となると、モチベーションの維持が大変そうですが、定期的に刊行している群雛であれば、手を上げた以上は〆切までに書き上げないと、という動機付けにもなりますね。また、同じ誌面を飾る作家との切磋琢磨という面もありそうです。

鷹野 「そうですね。マンガ誌をはじめ、雑誌の力=作家を発掘し育成する機能、が小さくなってしまっているというのは、よく指摘されることですが、文芸の世界は本当に深刻な状況だと思います。

 会社という単位でそれができないのなら、Google+のコミュニティのような単位、集まり方で何ができるだろう? と考えたのが群雛を作った理由の1つです。

 こういった動きがほかでももっと起こって欲しいですし、仮に群雛が大きく育てば、ビジネス群雛、マンガ群雛という風にカテゴリ分けしていっても良いと思っています。そこで、『僕が編集長やります』という人が出てきたら、お任せしていきたいとも。ノウハウはすべて開示していますので」

―― 育成についてはいかがですか? これまで出版社・編集者がかなりのリソースを割いてきた部分であるわけですが。

鷹野 「育成につながる作品のクオリティーアップという作業は、これからも必要だと考えています。面と向かってのやり取りは難しくても、オンラインでそれを行なうことはできるはずです。

 群雛でも、普段は書籍編集をされている方が、時には作品の中身に踏み込んでコメントする場合もあります。来るモノ拒まずですが、来た以上は限られた時間の中でできる限りそのクオリティーを上げるよう頑張っています」

―― 一人で作品を発表していくのとは違うメリットがそこにはあると言えそうですね。しかし、鷹野さん自身にはメリットはあるのでしょうか? 群雛の売り上げ自体は、儲かるというものではないですよね。

鷹野 「ビックリするくらい儲からないですね(笑)。でも、コミケとか文学フリマ、コミティアなどの同人誌即売会へサークル参加される方々と同じで、僕自身がやっていて“楽しい”から続けています

 僕の本業はあくまでもライターですが、そこに群雛という“楽しい”要素が加わったという感じです。群雛自体が儲からなくても、それを通じてこうやって取材してもらったり、ライター活動では得られなかった人のつながりが生まれている実感もありますね」

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