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膨らまない・燃えない・爆発しないリチウムイオン電池の開発へ

東北大学、全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体を開発

2014年05月23日 15時55分更新

文● 行正和義

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KI-LiBH4の模式図

 東北大学は5月21日、全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体KI-LiBH4を開発したと発表した。

 リチウムイオン系二次電池は軽量・高容量という利点があり、スマホなどのモバイル機器だけでなくEVや航空機まで用途が広がっているが、電解質として使用されている有機溶媒は可燃性であるため発火の危険性もある。いわゆる発火事故の多くは電極の不安定化や破損により短絡し、高熱が発生して分解した溶媒から酸素が出るなどして膨張、破裂した際に酸素と可燃性物質が結合して勢い良く発火する(金属リチウムだから燃えるという微妙に間違った説明もよくなされている)。このため、リチウムイオン二次電池の有機溶媒に代わり、固体の電解質を用いた全固体電池の開発がさまざまな企業や研究機関で進められている。

KI-LiBH4の走査型電子顕微鏡写真

 東北大学工学研究科の研究グループが着目したのは水素化物系固体電解質LiBH4(水素化ホウ素リチウム)で、この物質は115度以上の安定な高温相においてリチウムイオン(Li+)が高速で移動できることが知られおり、固体電解質の材料として注目されていた。ただし、高温相のLiBH4は異方性を持つため結晶のある方向ではイオン伝導性が低いという問題があった。

 イオン伝導において異方性を示さない岩塩型構造のLiBH4という状態も存在するが、岩塩型構造LiBH4は200度以上かつ4万気圧以上という状態でしか存在しない。研究グループでは、岩塩型構造が常温常圧で安定である KI(ヨウ化カリウム)にLiBH4をドープすることにより、KIの格子内にLiBH4が存在する物質を合成した。研究の結果、作成した固体内では主にLi+イオンが電流を担っていることが分かり、また固体内のイオン伝導性の温度依存性などから第三の添加物によりイオン伝導度が飛躍的に向上する可能性があることを示唆する結果が得られた。

 研究グループではこの伝導機構を“Parasitic Conduction Mechanism”と呼び、新たな伝導性材料開発の手法として利用できるという。組わせによってParasitic Conduction Mechanismが発現しさえすればどのような材料の組み合わせでも伝導体として利用できることになり、材料選択の自由度は飛躍的に広がるという。単に固体だから膨張・発火しにくいという安全性だけでなく、材料の組み合わせによっては現在よりも高容量・高出力・長寿命な電池が開発される可能性もある。

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