Q:アマゾンの“マンガ100円販売NG”が与える影響は?
A:ただいま“0巻”作戦を考案中
―― 先日アマゾンで、マンガなど容量の大きな作品は100円で売れなくなることが明らかになりました。システムの不具合で本来設定できない価格だったとアマゾンは説明していますが。影響は?
みそ 「大きいですね。とはいえ、嘆いていても仕方がありません。アマゾンが別途設けている期間限定でセールを行なう仕組みを有効活用していくしかありませんね。そちらだと条件を満たせば7掛けで利益が見込めますので。でも、セール期間以外のときに作品が全然売れなくなるのは痛いです。
―― シリーズマンガにとって第1巻が100円というのは売りやすかったでしょうし、ユーザーにも分かりやすかったですからね。
みそ 「そうそう。その代わりに僕は“0巻”というのを出すのはどうかな、と考えているんです。例えば『銭』は電子も出版社に権利があり、僕のほうで出せないから、その0巻をKDPで出して、そっちからつなげていくといったアイデアを暖めています。
Kindleでは、内容が7割以上異なっていないと別の巻として出せないのですが、例えば、既刊から名場面をぎゅっと抜き出して――これは出版社と調整しないといけませんが――必要に応じて書き足して、0円などで出すといった具合です。
よく書店にあるお試し版みたいなやつですね。そうやってまだ『銭』を読んだことない人に、手に取ってもらいやすくする。出版社にしても、既刊の宣伝になるんだから文句はないはずですよね。
別に0円でなくてもいいんです。3MBという容量制限を逆手にとって、20~30ページくらいの“薄い本”を作ったっていい。それなら100円にだって設定できるんですからね」
これからどうなる? セルフパブリッシング
大物作家は出版社コンペ方式に!?
―― 先生の取り組みやアイデアはかなりたっぷり語っていただきましたが、最後にまとめとして、業界全体としてセルフパブリッシングがどういう影響を与えていくのか、を聞かせてください。
みそ 「誰、とは言えませんが、大手出版社のほとんどで連載している作家さんなんかは、『これから自分の作品は、映像化を前提として書く。そして連載や書籍化の権利が欲しい出版社は、エージェントを介してコンペをしてもらう』という方針を示したそうです。
アニメとか映画の製作委員会のように、作品が連載される前から座組ができており、作家や企画も押さえられていて、出版社はそこに後から参加させてもらうという形なんですよね。
従来、映画化・アニメ化される作品って、まず原作ありきで出版社がそこでは大きな影響力を持っていた。でも、だんだんその構造も変わっていくと思います。成功事例が生まれれば、他の大物作家さんも続くんじゃないでしょうか。原稿料よりも遙かに大きなお金が動くことになりますからね。
今そういった大きな波が押し寄せています。ある意味“古き良き出版社の時代”というのは終わりを迎えるんじゃないかと僕は真面目に考えてますね。そのきっかけの1つは間違いなく、作家が根源的に著作権を持っていた電子化の動きであり、作家が主導権を持てるセルフパブリッシングの登場であることは間違いありません。
僕は1000部という規模の小さい話をしましたが、100万部を稼ぎ出すレベルの作家の間では、上記のような変化が起こっている。でも、そうやって、さまざまな段階の作家が、いろいろと自分で試せるようになったこと、結果として出版の世界に棲み分けができるようになったことはとても健全だと思います」
<前編はこちら>
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
主な著書に、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』『LINEビジネス成功術-LINE@で売上150%アップ!』(マイナビ)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など。
Twitterアカウントは@a_matsumoto
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