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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第100回

2四半期連続で減益のSamsung 落ち込みは一時的なもの?

2014年04月16日 17時00分更新

文● 末岡洋子

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 世界最大のスマートフォン、そして携帯電話メーカーのSamsungが黄色信号を点滅させている。最新フラッグシップ「GALAXY S5」のグローバルローンチの数日前に、同社は第1四半期の業績予測として営業利益の減益を発表したのだ。同時期にHTCも赤字決算を発表、改めて浮き沈みが激しい冷酷なスマートフォン市場を思わせるニュースが続いた。

海外では4月11日に発売されたSamsungの「GALAXY S5」。減益がつづき同社の救世主になるか注目を集めているが、高性能を売りにしてきたGALAXY Sシリーズにあって、文句なしの最高スペックと言いにくい点もコスト面も重視した証か

2四半期連続の減益予測
ハイエンドにも価格競争の波

 4月8日、Samsungは第1四半期の業績フォーキャストを発表した。同期の営業利益は8兆ウォン(約7800億円)と予想。これは前年同期から4%の減少となる。売上高は53兆ウォン(約5兆1900億円)。こちらは前年同期からほぼ横ばいだが、アナリストの予想値である54兆ウォンを下回っている。

 Samsungは2013年第4四半期に営業利益は前年同期比でマイナスとなっており(売上高は好調で過去最高だった)、今回のマイナスにより、前年同期比での減益が2四半期続くことになる。モバイルやコンシューマー家電は同社の売上の7割以上を占めると言われている。なお、同期のスマートフォンの出荷台数は9000万台と予想されている。第1四半期の正式な業績報告は4月25日頃の予定だ。

 Samsungにとって喜べない結果になりそうな第1四半期だが、4月11日に米国など主要市場で発売したGALAXY S5の効果から第2四半期は上向きが予想されている。であれば、減益は一時的なものと考えたいところだが課題はある。

 GALAXY S5はAppleが今年モデルの「iPhone」を出す前であり、トップベンダーとしてそれなりの売上が期待できる。だが、現状のハイエンド端末に対して消費者の関心や興奮が薄くなっていること、GALAXY S5は革新性や目新しさという点では既存の枠を出ていないこと(これはSamsung以外のどのハイエンドにも言えることではある)など、ハイエンド端末全体が抱える問題がある。

 次に価格だ。GALAXY S5はGALAXY S4よりも1割程度低く設定されている。これはスマートフォン市場全体に起こっている価格競争を受けてのもので、ハイエンドですら利益が取りにくいセグメントになりつつあることを裏付けている。先行発売された韓国に限って言えば、SK TelecomとKTの2大キャリアがGALAXY S5を販売できない(販売奨励金ルールに違反したことから、政府が2社に対してスマートフォン販売禁止を命じているため)という予想外の悲劇にも見舞われた。

 Samsungはもちろん対策を講じており、Galaxy S5はスマートウォッチである、Gearシリーズとのセットを全面に押し出したほか、音楽など60万ウォン(約5万9000円)相当のコンテンツをバンドルすることで付加価値を高める狙いだ。

HTCは大幅な赤字を計上
減益傾向の中でついにマーケティング予算も削減?

 そんなSamsungより一足先に痛みを味わっているのがHTCだ。同時期に発表した第1四半期の業績報告で、HTCは18億8000万台湾ドル(約63億円)の損失を計上した。フォーキャストで警告済みだったとはいえアナリストの予想を上回る赤字幅となり、あらためて過酷なスマートフォン市場の状況を実感させられた。

 SamsungとHTCはポートフォリオ戦略が異なる(Samsungは半導体なども有する巨大企業であり、そもそもはスマートフォン/モバイル事業の成長鈍化を他がカバーできるという点でHTCとは異なる)。ハイエンドに大きく比重を置くHTCに対し、Samsungはローエンド、ミッドレンジ、さらにはファブレット、タブレットと膨大なラインナップを持つ。

 ただ、ハイエンドで築いたブランドが全体に好影響を与えているというSamsungの図式を考えると、ハイエンドはやはり重要だ。Samsungがハイエンドでの差別化として力を注いで育てているのが、ソフトウェアとサービス開発だ。これについては以前のコラムを参考いただきたい(参考記事1参考記事2)。

 また、Samsung固有の問題もある。ここ数年の同社は、以前は追う立場だったNokiaやMotorolaの弱体化という環境から発生したメリットを受け、膨大なマーケティングを展開して成長した。

 特にNokiaのつまずきはこれまでSamsungの成長の一因となっていたのだが、スマートフォンの一巡とAndroidの勝利により、このメリットも効果が薄れている。今回のフォーキャストでは、Samsungがコストにもメスを入れることも報じられた。同社は2013年一年で、広告・キャンペーンなどのマーケティングに140億ドル(約1兆4200億円)という莫大な資金を注いだが、今年はその費用を前年より減らす計画のようだ。

 下り坂の勾配が激しいのがモバイル市場だ。Samsungはつい半年~1年前まで売上高と利益で過去最高を塗り替えていたが、今後もAppleとの2強時代が長く続くのか、再び起こりつつある市場の流れを好機につけたベンダーが登場(浮上)してあっという間に王座を譲ることになるのか……今年は正念場のように見える。

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