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中国に対する新しいアンチパイラシー戦略で、マイクロソフトは戦いには勝つかもしれないが、最終的な勝者にはなれないだろう

2014年04月06日 07時00分更新

文● Matt Asay via ReadWrite Japan

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マイクロソフトは中国企業にソフトウェアのライセンス料を支払わせる賢い方法を見つけたが、これは無用の長物になるかもしれない。

Microsoft

信用できる者だけに承認を与える。マイクロソフトの中国に対するアンチパイラシー(パイラシー=海賊行為)のための新しいアプローチは実に賢明だ。まあ、それなりの効果はあるかもしれない。過去の技術と時代遅れのビジネスモデルで作られた宝箱を満たすことで、マイクロソフトはパイラシーとの戦いを勝利で終えることができるかもしれないが、大局では完全に負けるだろう。


州司法長官に訴訟を起こさせる

ウォールストリート・ジャーナルでも報道されたが、マイクロソフトは中国企業に海賊版ソフトウェアの支払いをさせる上で、米国各州の司法長官という思いがけない同盟者を得た。

マイクロソフトは世界中から、特に中国から海賊版を排除するために、あらゆる手段を試みてきた。訴訟を起こしたり、正規品を値下げしたり、海賊版の製造が困難になるような技術を導入したり等だ。しかし、そのどれもが実際には機能せず、ソフトウェアの海賊版によって推定634億ドルもの収益を失った。

そのため、マイクロソフトは別の方法を試みることにした。やはり法に頼るやり方ではあるが、新しい切り口によるアプローチだ。以下は、ウォールストリート・ジャーナルのレポートである。

「司法長官は通常、州外の企業が関係する海外の問題には関与しない。しかし、ワシントン州レッドモンドに基盤をおくマイクロソフトは、海外のソフトウェア・パイラシーが、州内の企業の雇用損失につながるということについて、州司法長官の理解を取り付けた。なぜなら、マイクロソフトとその同盟者(全米製造業者協会等)によれば、製品をアメリカに輸出している海外企業は、海賊版のソフトウェアを使うことで不当にコストを抑えることができ、きちんとライセンス料を支払っているアメリカのライバル社に対し、価格面で有利に立つことができるからだ。」

マイクロソフトのソフトウェアライセンスについて誠実に対応しない中国企業を、米国内のビジネスから締め出すことで、マイクロソフトは数10億ドルの収益を上乗せすることができるかもしれない。

しかしこれは、決して良いニュースではない。


マイクロソフトの問題はパイラシーではない

マイクロソフトのアンチパイラシーに対する努力は、同社が間違った戦いを続けていることの暗示でもある。マイクロソフトが中国企業にデスクトップ・ソフトウェアのライセンス料支払いを請求している間に、世界はモバイルへとシフトしていた。周知の通り、スマートフォンの出荷に関する最近の Asymco データが示しているように、マイクロソフトはモバイルの世界ではまだ影が薄い。

Microsoft

Windows はこのチャートにほとんど表れないのだ。マイクロソフトはパイラシーで失った推定634億ドルの収入を中国から搾り取ることはできるかもしれないが、もっと大きな戦いにおける勝者にはなれないだろう。この戦いはデスクトップで起こるのではない。すべてはモバイルとクラウドの領域で起こるのだ。

そしてどちらの領域でも、マイクロソフトのビジネスモデルは的を外れている。

確かに、Apple iOSGoogle Android のエコシステムもパイラシーの被害を受けている。これらのアプリストアで有料のアプリがヒットすると、ほんの数分後に、代替サイトで無料バージョンが利用できるようになる。しかしそうだとしても、モバイルアプリのパイラシー問題は、デスクトップソフトウェアのパイラシーに比べて深刻度が格段に低い。理由のひとつは、モバイルのエコシステムはその大部分が、正規のアプリストアを中心に広がっているという点だ。確かに海賊版のサイトからアプリを手に入れる人もいるかもしれないが、彼らはあくまでも例外で、一般的ではない。


本当の問題は普及の規模である

2014年には、マイクロソフトの「ライセンス料で10億円を稼ぐ」というビジネスモデルは過去のものになりそうだ。Apple はシームレスのハードウェア/ソフトウェア/クラウド・エクスペリエンスを販売する。Google はアプリを無料で配信し、広告収入で利益を得る(Google の広告ビジネスは、どの程度パイラシーに脅かされているのだろうか?殆どゼロだろう)。Google の中国におけるビジネスは、現地のインターネットの普及規模に合わせて計画されているのだ。

言い換えれば、マイクロソフトにとっての問題はパイラシーではないということになる。そもそも、製品が普及するかどうかなのだ。そしてそれは企業のビジネスモデルの問題である。

マイクロソフトは数年前にこのことを理解した。中国で Linux との競争に苦戦していたデスクトップ版 Windows の問題に関して、当時の CEO のビル・ゲイツが宣言した。「海賊版の存在を認めた方が、Linuxとの普及競争で優位に立てる」。正にそのとおりだ。

Asymco のホレス・デディウは、この点をうまく捉えている

「マイクロソフトのソフトウェア・ライセンスのビジネスモデルは中国では通用しない。なぜならマイクロソフトが提供しているものは、中国にとっては対価を支払うに値しないものだからだ。PC でもモバイルデバイスでも、中国が評価するのは形あるものだけだ。ソフトウェアは、ハードウェアの購入決定に影響を与えるときだけ価値が生じる。そのためには、ソフトウェアは統合された製品の一部として販売される必要があるのだ。」

世界がハードウェアや広告のような実体のあるものにシフトしている間も、マイクロソフトはソフトウェアのライセンスを闇雲に崇拝し続けている。マイクロソフトが過去の技術を使った過去のビジネスモデルでお金を稼ぐことへの執着をやめない限り、中国でも他のどこの国でも、現在と未来のソフトウェアユーザーと良い関係を築くのは難しいだろう。


画像提供:Shutterstock

※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら


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