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日本のITを変えるクラウド世代のベンチャーたち 第6回

目指すは1000万超えのクラシファイドサイト

漁船や脱穀機を無料でゲット?地元に根ざすジモティーの深謀

2014年04月09日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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日本ではまだなじみのないCGM(Consumer Generated Media)型のクラシファイドサイトを手がけるベンチャーがジモティーだ。1990年代感漂うユニークなサイトの概要や足の長いビジネスモデルについてジモティーCEOの加藤貴博氏に聞いた。

「がんばってガラパゴス化している」ジモティーのたたずまい

 地域の掲示板を謳うジモティーのキラーコンテンツは、引っ越しや模様替えの時に出てくるような家具や家電、車、自転車、バイクだ。送料がかかってしまうような中古品を、当事者同士が地元で直接やりとりするパターンが多いという。加えて、タダですごいものがゲットできる可能性もある。ジモティーの加藤氏は、「『継いでくれる人がいないので、島根の山奥にある300坪の土地あげます』とか、別荘や漁船、脱穀機までありました(笑)」と語る。こうしたモノのやりとりだけではなく、アルバイトや友人募集、里親の募集なども盛んに行なわれている。

ジモティーCEO 加藤貴博氏

 こうしたジモティーのコアユーザーは、地域で過ごす時間が長く、PCやスマホに慣れていない主婦や高齢者。メルマガやサイト内アンケート、あるいは聞き取りなどでヒアリングしたところ、可処分所得が小さく、時間をもてあましている人たちが多いという。

 こうしたコアユーザーを抱えるだけに、ジモティーのたたずまいは洗練されたリッチコンテンツを用いた最近のサイトとは大きく異なる。アクセスした多くの人が感じる感想は、おそらく「ダサイ」だろう。手持ちのケータイで撮った不要品の写真がずらりと並び、CGIの掲示板と手書きのHTMLを組み合わせたような“1990年代感”漂うサイトのたたずまいは、まるで昭和の喫茶店に足を踏み入れたよう。「がんばってガラパゴス化しています(笑)」(加藤氏)というコンセプトのデザインは、かえって新鮮に映る。

1990年代感の漂うジモティーのトップページ

 利用に際しても、メールアドレスだけあれば、投稿が可能で問い合わせのみなら会員登録も不要。投稿を目立たせるオプションだけ有料で、仲介に関する手数料も発生しない。加藤氏は「自分でも出していいんだと感じられる空気や背景が映り混んでいるような生活感満載の写真が多いのが、ジモティーのいいところ」と敷居の低さをアピールする。

 また、オークションやコマースサイトと異なり、直接取引が前提なので、トラブルが少ないのも特徴。「月に2~3件、待ち合わせですっぽかされたというクレームが入る程度」(加藤氏)。もちろん、こうした直接取引を避けたいユーザーのために、輸送代行も提供しているという。

ヤフーが捨て去ったディレクトリを地域の切り口で

 地域情報の交換はもちろん、中古品リサイクル、人材募集などさまざまな機能を統合したジモティーをあえてカテゴライズすると、地域ごとの最新情報を分類した「クラシファイドサイト」に当たる。厳密な定義はないものの、各サービスの共通項を探ってみると、「州だったり、町だったり、地域が入口として分かれています。そのローカルの入口で、カテゴリがメッシュを切るように作られています。この「地域×カテゴリ」で、さらに新しい投稿が上位に来ます」(加藤氏)という特徴を持つ。グーグルのアルゴリズム検索が登場によって、ヤフーが捨て去ったディレクトリ型検索をローカルごとに提供するようなイメージだ。

 こうしたクラシファイドサイトはすでにグローバルではメジャーな存在だ。「米国では6000万人ユーザーが使っているクレイグスリスト(craigslist)、中国にはすでにIPOしている58.comなどがあります。しかし、日本で地域情報を得られるサイトって、ヤフーじゃないし、思いつくのは“eまちタウンさん”くらい」とのこと。折しも会社設立直後に起こった東日本大震災において、地域同士のつながりがクローズアップされたこともあり、地元密着型のクラシファイドサイトとしてスタートしたのがジモティーだ。

米国のクラシファイドサイト大手のクレイグスリスト

 運営会社となるジモティーは投資会社のIVPが2011年2月に設立し、2011年4月にテスト版をリリースした。しかし、半年間運用を続けた結果、ユーザー数が一気に伸びないことがわかったという。「お金でコンテンツを買ってきて垂直的に立ち上げるのではなく、ユーザーが自主的に書き込みしていくような“場”と“空気感”を長い時間かけて醸成していくことが重要なことに気がついた」とのことで、元リクルートでB2C系サイトを手がけていた加藤氏がトップに就いたという経緯だ。

息の長いCGM型サイトを目指す

 加藤氏はリクルート時代にフロムエーやカーセンサーなどのサービスを手がけてきた、マッチングプラットフォーム構築のプロ。広告ベースのB2Cサイトを10年以上やってきたノウハウを活かせるという自信と共に、数千万のユーザーが使うというCGM型サイトのスケールに魅力を感じたという。「リクルートのホットペッパーも数百万人のユーザーはいるのですが、後から追いかけてきた食べログがユーザー数であっという間に抜いてしまった。価値判断はさまざまなのですが、B2CメディアはCGM型メディアに勝てないかもしれないという思いはあった」(加藤氏)。こうした経験を経て、CGM型サイトのジモティーにチャレンジすることにしたという。

 ジモティーにジョインした加藤氏はサイトの作り方や体制を抜本的に見直し、2011年11月にサイトをリニューアルした。「中国のクラシファイドサイト大手の百姓网に成功要件を聞き、リニューアルに活かしました。たとえば、サイト運営をスピーディに、投稿数にこだわる、シンプルに使えるなどを重視しました」(加藤氏)。もう1つ重視したのが、カテゴリの再編と育成。「飲食業の情報は集まりやすいんですけど、更新のモチベーションが低い。一方で、不要品や中古品の引き取りはユーザーに直接メリットがあるので、モチベーションが高い。だから、リニューアル当初は社員全員が知り合いに頼んで、とにかく不要品を投稿してもらった(笑)」とのこと。

食器棚、テーブル、ジャンクテレビなど0円のものが並ぶ

 とはいえ、問い合わせはユーザー登録も不要で、仲介料も不要。役立つ情報がタダで得られるジモティーのサービスを見ると、素直に「これはどうやって儲けるのだろう?」という疑問が沸いてくる。これに対して、加藤氏は、広告とアフィリエイトの他に、サイト内で上位表示できるオプションを個人ユーザーに販売し収益をあげていると語る。クレイグスリストが一人当たり営業利益でGoogleを上回っているように、実はクラシファイドサイトは収益性の高いビジネスモデル。加藤氏も「ジモティーの月間訪問者数は約150万人。クレイグスリストも、月間1000万ユーザーを超えるまで、約5年かかっています」と、将来的に高収益事業となることを見据えて息の長いサイト運営を目指す。

日本の社会の課題を解決する生活インフラになれるか?

 最近スタートしたのが、地元のお手伝いさんを紹介するサービス「ジモてつ」だ。東京都内にサービスエリアを限定してオープンしたが、1週間で350名が集まったという。加藤氏は、「ユーザーへのヒアリングの中で、地元でお手伝いをおねがいしたことがある、あるいはお手伝いしたいという話がいっぱい出てきたので、作りました。ジモティーのユーザーは地元にいる時間が長いので、マッチングする可能性が高い。マーケットを見ると、家事代行や便利屋のサービスが伸びているという背景があるので、こうしたサービスを作りました」とのことで、近くで手軽を募集できるという。ユーザードリブンなサービスは今後も増やしていく予定だ。

 こうしたサービスも含め、個人的にジモティーの最大の魅力と感じられるのは、少子・高齢化や地域経済の疲弊、低所得者層のセーフネットなど、現在の日本の課題に照らした社会的な意義だ。

 加藤氏は、「私も90歳の祖父が九州に1人で住んでいますが、両親は東京にいます。地元を離れられない人のために、地元で手伝ってくれる人を募集するような“場”は、どう考えても必要になってくる。以前、村社会でカバーしていたところが、今後はITで担えればいいと思う。社会貢献としてのモチベーションは日々高まっていますよ」と語る。21世紀の生活インフラとなるのか、サービスの伸張を期待したいところだ。

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