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残業ゼロのIT会社、理想の就労環境の作り方とは

2014年03月28日 10時00分更新

記事提供:ITソーシャルニュース

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iOS(iPhone/iPad)アプリ開発を行うフィードテイラーの大石裕一代表(38)は、理想の就労環境作りを目指して2006年に起業した。残業が多いとされるIT業界で、残業禁止を掲げ、開発に専念できる職場を実現している。「10年前は今よりもっと、開発者は過酷な働き方を強いられていた。理想の就労環境を探してIT系企業への転職を繰り返したが見つからず、自分で作ることを決意した。プログラム開発者にとっての理想郷を作りたかった」と話す。
フィードテイラー 大石裕一代表

■理想的な就労環境とは

「開発者にとって一番幸せと思える環境。それは、なにものにも邪魔されることなく開発に専念でき、能力が発揮できる環境だと考えています」。そのための具体的な制度の一つとして、残業の禁止がある。就労時間は9時から18時で、2012年の平均残業時間実績は1日1人当たり1.5分と徹底されている。

「自身の経験から、プログラム開発のように知的な生産活動は没頭すると止まらなくなりますが、8時間集中したら限界だと考えています。それ以上は効率が上がらない。だから定時以降はプライベートにスイッチを切り替えてほしい。そして、翌日また最高の集中力で仕事にのぞんでほしいと思っています。その分、就労時間内は3分でも分断されないように、集中して“のめりこめる”時間を作る努力をしています」。

まず、開発者の部屋と事務室を物理的に分断することで、開発室にはじゃまが入らないようにしてある。外部からの電話、メール、営業なども一切入らない。小腹が空いた時に買い出しに行かなくてすむよう、お菓子や飲み物も常備してある。


事務所と分断された開発室の様子

■すべては生産性を高めるために

専念できるのはモチベーションがあればこそだと考え、モチベーションを高める制度もいくつも用意している。

「優秀な人ほど常にアンテナを張っていて、自分で新しい課題を見つけていきます。なので、水曜日の午後4時間は聖域として確保し、それらを試せる自由な時間にしています。副業も推奨しています。そこから新提案につながることもあるし、自己成長にもつながっています」。

そのほか、新しいアイデアにはAmazonギフト券を進呈したり、毎日の夕礼で、必ず全員が新しい気づきを共有し合うことで全体の成長につなげたりしている。「ベンチャーなのでという言い訳はしたくないと思っています」と、社会保険や、有給以外に家族の誕生日にも休みがとれるなどの多様な休暇制度、水準以上の給与も実現。社員のプライベートの充実も大事に考えている。

「すべては生産性を高めることが目的です」。実際、5人の開発者のみで、アプリ開発を専業にした2008年からの実質5年間で100以上のアプリを開発している。代表的なものに、のべ220万ダウンロードを超えた天気予報アプリ「そら案内」シリーズや、100社以上に導入実績のあるDropboxの企業向け版ともいえる「SYNCNEL(シンクネル)」などがある。受託開発でも質の高さが評価され、リピートにつながることが多いという。

■いい「労使関係」や「働く環境作り」、発信して広めたい

「社員とは半年に1回面談を行っていて、要望を聞きますがほぼでてきません。『もし別の会社に行くことになったら働けないと思う』などと言われることもあり、開発者には理想郷と感じてもらえているのかな、と思います」。

一方、営業業務やクライアントとのやりとりなど外部窓口、マネジメント業務を一手に引き受ける大石氏自身は、1日14~16時間労働、休みは土曜日の午後のみというほど働き詰めだ。「自分の理想郷はまだまだできていない。ここ2〜3年模索中です」と話す。

今後は、自社開発のアプリやサービスの割合を増やし、収益増を目指すとともに、自分の代わりとなる人材を見つけたいという。そして、最近では、講演会やネットニュースのコラムなどで自身の経営や仕事の進め方哲学の発信も積極的に行っているが、それをより広げていきたいという。

「今まで自分のような役割につきたがる人はいないと思っていたが、講演などで共感してくれた人から連絡が入るようになりました。こういう会社の作り方もあるんです、っていうことをもっと伝えられたら、もう少し世の中の開発者が幸せになれるんじゃないかなと思っています。ゆくゆくは、開発者に限らず、自分の経営理論のいわば“実験”のプロセスをよりアウトプットしていくことで、いい『労使関係』や『働く環境作り』を広めていければと思っています」。

(取材・記事:小林律子)

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