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世界からインターネットが消える日

2014年04月07日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/アスキークラウド編集部

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国境なき記者団によるネット検閲の割合。青は検閲なし、黄は多少検閲あり、赤は厳しい検閲を実施、黒は大変厳しい検閲を実施

 「Googleは自由の象徴じゃなかったのか……」と言うと、「何を今さら当たり前のこと言ってるんだ」とあきれられるかもしれない。だが、少なくともGoogleの経営思想である「Googleが掲げる10の事実」には、「ウェブでも民主主義は機能する」「悪事を働かなくてもお金は稼げる」とある。インターネットは自由で誰もが隔てなく平等に情報にアクセスでき、Googleは悪いことをしなくても利益をあげられるという話だったはずだ。

 Googleの信頼がゆらいだきっかけは、情報工学者のエドワード・スノーデン。米NSA(国家安全保障局)による諜報活動のリークだ。リークされた資料によれば、MicrosoftやYahoo!、Googleなどの大手企業が通信傍受の対象となっていた。GoogleやFacebookは一切の関与を否定しており、Googleのラリー・ペイジCEOは米政府への協力について事実無根だとする声明を出した。米ワシントン・ポスト(電子版)によれば、Googleは利用者が打ちこむ検索ワードを自動的に暗号化する技術を導入し、当局の検閲を防ぐという対抗策を講じている。

 しかしGoogleは米内務省のクラウドサービスを手がけるなど政府とのつながりが強く、疑念が完全に払拭されたとは言えない。

 「Googleは西海岸の自由な企業から、東海岸寄りの企業になりつつある」と言うのは、情報通信総合研究所の志村一隆氏だ。ウェブブラウザー「Firefox」を開発しているNPO法人MozillaにしてもGoogleの寄付で成り立っている団体だと志村氏は言う。Mozillaはウェブを自由な空間に戻したいが、MozillaがFirefox OSを出すとき検索エンジンはGoogleと決められている。無料で使えるスマートフォン向けOSと言っても、結局はGoogleを通じて政府の情報収集に使われるかもしれない。

 各国が米国に監視されたくないという思いを募らせれば、国境を超えて自由に情報をやり取りできるワールド・ワイド・ウェブそのものの死を引き起こす可能性さえある。事実、冒頭にネット検閲を実施しているとされる国を示したが、インターネット内での反政府団体の活動を監視・抑止したいイランのように、国外へのアクセスを一切禁止してしまおうとする動きすらある(ナショナル・イントラネット構想)。

 中国は条例を敷いてネットを検閲しており、2010年にはGoogleも撤退を余儀なくされた。ロシアでは2012年、「政治的に過激な内容を含む」と判断したサイトへのアクセスを禁じるネット規制法が下院を通過した。先月20日には、トルコ政府がエルドアン首相が汚職に関わっていた証拠とされる音声をネットで拡散されたことを受け、国内からTwitterやYouTubeへのアクセスを強制的に遮断した(現在Twitterは措置解除)。

 総務省情報通信政策研究所の仲矢 徹所長によれば、米国は国連がインターネットを規制するのではないかという懸念を抱いている(PDF資料)。国連専門機関である国際電気通信連合(ITU)の会議で定めた規則を見直し、通信の規制や監視を可能にすべきという改定案が挙がっているのだ。インターネットを使ったテロ活動を抑止したい、データ資源を先進国に独占させたくないといった理由だ。

 今年10月、韓国・釜山で開かれる「ITU全権委員会議」で、各国の代表が情報通信の今後について議論する。もし諸国の要望で規則が変更されれば、現在のネット環境を規制可能にする方向に動きかねない。

 グーグルのようなグローバル企業、引いては情報サービス産業を牽引する米国政府にとってインターネットのオープン性、ボーダレス性が損なわれるのは死活問題だ。ITU加盟193カ国の中で先進国は少数派。規則が先進国と途上国で割れてしまう可能性もあると専門家は懸念を示している。

 「アスキークラウド2014年5月号」では、インターネットビジネスの終わりをテーマに大特集を編成している。インフラとしてのインターネットも存在が危ぶまれるが、パソコンとウェブブラウザーを中心としたビジネスの世界にも激震が走っている。

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