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パソコンが消える、未来のオフィス

2014年03月24日 17時00分更新

文● 伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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2013年のパソコン出荷台数は、1995年の統計開始以来、過去3番目の出荷台数を記録した。市場を引っ張っているのは法人需要で前年に比べて約170万台増えている。しかし、ビジネスツールとしてのパソコンは安泰ではない。文具やオフィス家具を扱うコクヨは1969年から未来のオフィスを想定した「ライブオフィス」作りを続けており、現在「クラウドワーク」を提唱。コクヨグループのオフィス家具子会社コクヨファニチャーでコンサルティングディレクターを務める鈴木賢一氏に話を聞いた。

コクヨファニチャー スペースソリューション本部コンサルティンググループの鈴木賢一コンサルティングディレクター(写真:西尾 豪)

――霞が関のライブオフィスと最近のオフィス作りの状況を教えてください。

 コクヨでは1969年から自社オフィスで社員自身が実際に働く姿そのものを顧客に訴求する「ライブオフィス」という取り組みをしています。ここ霞が関のライブオフィスは2012年12月にリニューアルし、コンセプトは社内の連携の輪がより深くなる「深輪」、社外との新しい人との縁を広げてつなげる「広縁」の意で、「深輪・広縁(しんりん・こうえん)」とわれわれは呼んでいます。

 今までのオフィスは作業がスムーズに進む環境作りが求められていました。しかし、最近は作業の場を作るだけでは、価値創造につながらないことが分かってきました。1人で抱え込まずに誰かと会話をするとか社内のチームワークを強くする場が求められています。

 また、お客さまの課題が企業の持つリソースだけで解決できなくなっています。例えば、「座っているだけで健康になれるイスはありませんか」とイスに付加価値が求められており、単にイスを販売するだけのビジネスができなくなっています。会議室も顔を合わせる場所から「アイデアが出るような会議室はないですか」など、オフィス家具やオフィス空間そのものに求められる付加価値が重要になっている。その付加価値を創出するためには、社内だけで課題解決するのはさすがに難しいので、外部の知見のある新しい人たちとつながらなければならないんです。

 今までのやり方と同じでは何も変わりません。どうやったら社員や組織が生き生きと効率よく働き、パフォーマンスが上がるかをインターネットやクラウドが与える影響とともに、オフィスでの働き方をどう変えるか考えています。

――実際にどのように働いているのでしょう。

 われわれの会社でも現時点では一人一台の割合でパソコンを持っていますが、今後は減っていくでしょう。コクヨは仕事をするツールに関してはクラウドを多く導入しています。スケジュールやメールなどのコミュニケーションに関わるインフラはすべて移行しています。

 外で働いている社員はスマホで素早くメールを返信し、個人のスケジュールをチーム全員の予定と重ね合わせることができます。メモや録音、写真も撮れるので業務のスピードが上がりました。
 例えば、チームの一人が新築ビルの建物を見に行くとします。現場では当然、その様子などの写真を撮り、今までは会社に戻ってカメラをパソコンなどにつないでサーバーにアップロードしていました。しかし、今は帰りの移動中にクラウドのストレージにフォルダーを作って保存するだけです。会社に着く頃には、関係者全員へのファイル共有が終わっています。

鈴木氏の所属するチームには個人用の机やイス、引き出しは用意されていない。作業をする時だけ空いている席を使う働き方なので、パソコンが机を占有することもない(写真:西尾 豪)

――霞が関オフィスにとってスマホは働き方を劇的に変えましたか。

 スマホはもちろんですが、顔を合わせて話ができるビデオチャットと社内SNS。この3つが大きいです。

 ビデオチャットのように同じ場所にいなくてもカメラ越しで相手の顔を見ながらつながれるのは明らかに影響力があります。これまでは、顔を見て話をしようとすると会議室を予約しないといけない。そうすると議案の優先度よりも会議室の空き状況に優先度が左右されてしまうんです。一つの場所に集まらなくても議論できるビデオチャットがなかった時代と比較すると、意思決定のスピードが大いに速まりました。

――社内SNSはどのように使っているのでしょう。

 社内SNSも効果があると考えています。メールは個人に情報が入ってくるが、他のメンバーはCCに入っていないと何が起きているか分からない。SNSはタイムラインで、直接関わりがなくても周りの状況が見えてコントロールできる。われわれは企業向けの社内SNSを実際に導入しています。定着する企業が少ない中で、コクヨでは「深輪・広縁」のコンセプト通り、成功していると思います。

 今まで会社に何をしに来ていたかというと、会議や事務作業をする。もしくは、大事な書類をしまっておく収納庫があるからオフィスの重要性が高かった。だから収納庫も作るし、打ち合わせスペースも作るし、自分専用の座席を作るんです。

 クラウドワークはタブレットやスマホで持ち運びができる。極論を言うと会議や机、収納庫なんかはいらない、どこでも仕事ができるというのがわれわれの見解です。

――今後のオフィスはどのように変わりますか。

 パソコンやロボットができることは、よりスピードを求め効率化されるでしょう。しかし、コミュニケーションやアイデアを生み出すことは人にしかできない。人の知識や議論などから新しいビジネスを生み出す環境づくりが、今後のオフィスに求められます。

 バーチャルワークプレースも増えており、メールを活用するのはもう当たり前です。今後はタブレットやSNSをもっと使うようになるでしょう。さらに言うとバーチャルのオフィスにアバターが出社する時代もそう遠くないと思っています。


「アスキークラウド5月号」では、「インターネットも終わってた」と題して、ソニーのパソコン事業撤退で騒がれるパソコン市場や消えたネットカフェ、パソコンが置けないコクヨのオフィスなど、パソコンの現状と周辺ビジネスの変化を特集している。


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