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やや遅ながら「IEEE802.11acデビュー作」は検証を重ねた自信作

寄り道は無駄じゃない!スマホ時代に発揮されるラッカスの強み

2014年03月20日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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ラッカスワイヤレス(以下、ラッカス)は、ビームフォーミングを中心とするアンテナ技術に強みを持つ無線LAN機器ベンダー。スマートフォン・タブレット全盛の時代になり、「ノイズに強い」「パフォーマンスが高い」というメリットは、ますます大きくなっているという。

BeamFlexの誕生はSTBのビデオ転送?

 ラッカスワイヤレスといえば、エンタープライズ向けの無線LAN製品を提供するベンダー。知名度は低いが、国内ではKDDIのau Wi-Fiのインフラで採用されているほか、豊富な導入実績を誇る。ラッカスワイヤレスジャパン テクニカルディレクター 小宮博美氏は、「au Wi-Fiでは2012年のリリースで10万台設置と発表されていますが、もちろん現在はこれをはるかに超える数のAPが動いています。KDDI様以外でも数多くの事例があり、ホテルや空港、サッカー場や野球場など、数多くのラッカス製品が動いています」と語る。

ラッカスワイヤレスジャパン テクニカルディレクター 小宮博美氏

 もともとラッカスが設立された2004年は、エンタープライズ向けの無線LAN市場が勃興した時期で、アルバやメルー、エアロスペース(現シスコ)、コルブリス(現HP)、エクストリコムなど、まさに雨後の竹の子のように新興ベンダーが登場した。しかし、ラッカスはフォーカスしている部分が違っていたという。「最初はVideo54という社名で、自宅のセットトップボックスのビデオストリーミングを(IEEE802.11a/gの)54Mbpsで飛ばせるのを売りにした会社だったんです」(小宮氏)。これを実現すべく、壁があっても大容量伝送できるように作ったのが、「BeamFlex」と呼ばれるビームフォーミング技術だ。

 ビームフォーミングは、電波の指向性をソフト的に持たせる技術。360度に全方位で電波を送出するオムニアンテナに対して、ビームフォーミングを実現するスマートアンテナでは、アンテナ表面のエレメントの電力をコントロールし、パケットごとに最適なアンテナパターンを自動選択する。他社ではサプライ品扱いのアンテナをわざわざ自社開発し、ノイズに強く、パフォーマンスの高いビームフォーミングを実現しているのがラッカスのIPといえるわけだ。小宮氏は、「創業者の1人は過去にジュニパーのソフトウェアを書いたスペシャリストで、もう1人がアンテナの専門家。投資会社がこの2人を引き合わせて、作ったアンテナとそれをコントロールするソフトウェアがラッカス製品のベース」と語る。

ソフトウェア的に電波の指向性を持たせるビームフォーミング

 もちろん、ビームフォーミング自体は汎用技術であり、IEEE802.11の規格の一部にも含まれている。しかし、標準規格になっている「トランスミットビームフォーミング」は、クライアントからのフィードバックが必要。そのため規格にあっても、実装例がないという。これに対して、ラッカスのダイナミックビームフォーミングは、クライアントのフィードバックではなく、スループット重視で電波を捉え、高いスループットを実現する。「一言でいえば、ノイズに強い。RFの最適化ができて、広いカバレッジと最高のパフォーマンスを提供できる。アンテナ周りだけで30個以上の特許を有しているので、他社が追いつくのはなかなか難しい」と小宮氏は語る。

4年間の寄り道でエンタープライズに参入

 卓越したビームフォーミング技術でコンシューマ向けのSTB市場は席巻したものの、市場自体がそもそも大きくなかった。そこで、社名変更したラッカスは2008年にエンタープライズ市場に参入。既存のビームフォーミング技術をそのままに、多彩な認証やロードバランシングなどを可能にするWLANコントローラーを投入したという。現在では屋内/屋外用のAPからWLANコントローラー、管理・レポートツール、ロケーションサービスなど幅広い製品群を取りそろえている

エンタープライズをカバーするラッカスの製品群

 このように他社に比べて、4年もエンタープライズ市場への参入が遅れた同社だが、スマートフォンやタブレットの爆発的な普及で、そのハンディはなくなった。ラッカスは独自のダイナミックビームフォーミングに加え、偏波をクライアントの特性にあわせダイナミックに調整する技術を搭載する。そのため、使っているうちに端末の方向がどんどん変わっていくモバイルデバイスでも高いパフォーマンスを得られるという。「小型なスマートフォンやタブレットは、電波の受信感度がPCに比べてはるかに低い。小型なので使っているうちの端末の角度もどんどん変わる。しかも台数が増えているので、つながらない。こうなるとノイズに強いラッカス製品のメリットがますます際だつ」と小宮氏は語る。

 それを示すのが、冒頭に紹介したKDDIのau Wi-Fiのような大規模事例だ。昨今、伝送単価の安いWi-Fiにデータをオフロードする流れが鮮明だが、こうしたキャリアの需要にラッカスは完全に応えるという。小宮氏は、「(KDDIのような)キャリアからすると対象の端末はPCではなく、あくまでスマホなので、スマホで部屋の端から端まで届くのはどこかを検証する。こうした検証まで行ってしまえば、ラッカスは勝率の高いベンダー」と語る。キャリアマーケットの出荷数であれば、シスコと変わらない実績を誇るということで、今後はスマートフォンのSIM認証などの強化も進めていくという。

第1世代のチップセットはあえてパス

 そんなラッカスがいよいよIEEE802.11ac対応の「Ruckus ZoneFlex R700」を投入した。他社から遅れてのIEEE802.11ac市場の参入いなるが、この理由は性能面で不満の目立つ第1世代のチップセットをあえてパスしたからだという。「第2世代のアセロスチップセットを搭載し、検証を重ねた結果、納得したパフォーマンスが得られた」(小宮氏)という自信作だ。

IEEE802.11ac対応の「Ruckus ZoneFlex R700」

 ZoneFlex R700のもう1つの特徴は、IEEE802.3afの給電ですべての機能が動く点。他社製品のように一部の機能をオフにせず、APを取り替えるだけでIEEE802.11acの性能や機能をフル活用できるという。手間なく、IEEE802.11acへのアップグレードを実現したいユーザーにとって、うれしい設計だ。

Ruckus ZoneFlex R700内部にはスマートアンテナが並ぶ

 今後の注目はIEEE802.11acの完全版であるWave2で実装される「マルチユーザーMIMO」だ。「MIMOのストリームをユーザーごとに割り当てることで、1回に通信できる相手は1人だけという無線通信の前提を初めて破ることができる。ここでも弊社のBeamFlex技術は効果を発揮する」とのこと。

 最近のWLANベンダーは位置情報サービスやBYODなど付加価値の提供に焦点を置いているが、ラッカスは一貫して「安定・性能・カバレッジ」を追求する。まるで頑固一徹のラーメン屋のような同社の製品は、オリンピックでのインフラ整備やスマートフォンブームや活気づく日本の無線LAN市場を賑わせてくれるに違いない。

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