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業界人の《ことば》から 第80回

ゼロ・グラビティの制作に、なぜデルが選ばれたか

2014年03月15日 12時00分更新

文● 大河原克行

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360度LEDで囲ったライトボックスで俳優が演技

 一方で、シーンの多くが宇宙空間であるため、光源は太陽となり、それが宇宙服や宇宙ステーションにどう反射するのかといったこともシミュレーションしたという。

 「映画全体を通じて、光をどう当てるのかを考えた。当社が専用に開発した物理的なライトボックスを使い、そのなかに俳優が入り、360度ぐるりとLEDで囲ったなかで演技を撮影した。この仕組みは全編で利用されたものである」という。

 太陽の光が、主人公たちの顔にどう当たるのかは、映画のストーリーにおいても重要なものになる。そこから、主人公が置かれた状況がいいのか、悪いのかということがわかるようになっているからだ。

 そのほか、宇宙服の布地の様子を表現したり、空気がない宇宙空間において爆発の火や飛び散る液体はどう動くのかということも、シミュレーションを実施。20分に渡る長いシーンでは、俳優の映像、シミュレーションをもとにして制作したCGやアニメーションによる細かな描画といった様々なものをつなぎあわせていったという。

 「撮影そのものは6週間であったが、非常に困難な撮影であったのは事実。サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーには、何度も同じ演技をしてもらうことになったが、すべてがすばらしい演技だった」とMacpherson氏は語る。

レンダリングファームは、ピーク時1万5000コアで運用

 だが、全編の8割にCGを使用する作品において、高いレゾリューションの映像を実現するには、レンダリングに高い負荷がかかる。

 編集スタジオでは、PCに換算すると5000台分の処理能力を用意し、「ゼロ・グラビティのレンダーファームは、ピーク時には1万5000のコアで運用していた」という。

 一方で、宇宙空間の映像表現においては、NASAが全面的に協力。宇宙や宇宙飛行士の画像を数多く提供を受けたほか、NASAから派遣された顧問にも随時、相談したという。

 「その結果、リアルな地球の映像を表現できた。光を取り入れたレンダリング処理を行っており、これは映画業界においても大きな業績になるものだといえる。単にきれいだということだけでなく、地球のゆがみなども表現し、そこに潜む美しさを実現している。よりリアルな宇宙空間を再現できたと自負している」とする。

 そして、Macpherson氏は、「NASAの人たちが見ても、実際に宇宙で撮影したような映像にしたかった。そして、見ている人がひとりとして、これはリアルではない、と思わないような映像が完成した」と自信をみせる。

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