スペーサーで大胆にチューニングを変えられる
周波数特性に関しては、自分で微調整して楽しめるようになっています。そのためのグッズとして、付属するイヤーピースの量に圧倒されます。普段使い用にシリコン製の薄いもの、それより遮音性のいい2段タイプ、そして最大限に遮音性を発揮する低反発ウレタンと、形状と素材、そしてサイズの異なるものが合計14セット付いてきます。
今まであまり見たことのない新機軸としては、ノズル部分にスペーサーを入れて、イヤーピースの装着位置を変えるというもの。人間の耳には閉管共鳴という現象があり、特定の周波数にディップやピークがあります。その周波数は耳穴という管の長さを変えることで調整可能。その管の長さをこのスペーサーで調整して、イヤホンで耳をふさいだ際の音質を変えようということです。K3003には、ノズルに付ける金属メッシュ製の音響フィルターが付属していましたが、あれと似たようなギミックとも言えますね。
実際試してみると、スペーサーの長さで音が結構違う。イヤーピースによっても音が違うので、全ての組み合わせを試してインプレッションしようと思いましたが、まるで現代詩の朗読のようになるのでやめました。
端的に言えば、耳穴という共鳴管が長くなるほど、共鳴する周波数が低くなっているということでしょう。スペーサーのない状態だと「シッシッ」とに聴こえたハイハットのチップ音が、長いスペーサーを入れると「チッチッ」と聴こえるようになります。
とはいえ、初心者の方は怖がらなくても大丈夫です。いきなりこんなマニアックで意味の分からないことをしなくても、普通に装着すればいい音で楽しめるようになっているので。
ハイブリッド型全盛時代がやって来る?
先に書いたように、ハイブリッド型の製品に当たり外れが大きいのは、デバイス、音響抵抗、ネットワークなど、部品点数もそのチューニング箇所も増えるからでしょう。少なくともデバイスを調達して、金型にポンと入れれば作れるような代物ではない。逆に、だからこそ工夫次第で面白いものが作れるわけです。
それが証拠に、古参最大手のソニーから新興メーカーによるものまで、横一線に並んだ状態で、ハイブリッド型の優秀な製品は続々と登場しています。リスナーの立場から言えば、音質を決定する可変因子が増えたおかげで、イヤホン選びの楽しみが広がったとも言えます。
ここのところの高級イヤホンがたどっていた道筋は、物量がそのまま音や評価につながるハイエンドオーディオの状況に近かったものと思います。それが設計の工夫や、チューニング次第ということになるなら、ちょっと楽しい。これはOlasonic×音茶楽の「FN-4N」のときにも感じたことです(関連記事)。
DN-1000は、高級イヤホンの入り口として最適なのはもちろん、価格も手頃なので、イヤホン好きなら1つは手元に置いておくべき製品かもしれません。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター、武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。インターネットやデジタル・テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレ。