このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

全部見せます「RSA Conference 2014」 第1回

「RSA Conference 2014」基調講演の悲喜こもごも

火消しで手いっぱいのRSA、スノーデンがかけた呪いの影響は?

2014年03月05日 06時00分更新

文● 谷崎朋子

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

もうアメリカ政府は信じられないと暗号研究者が吐露

 NSA問題については、暗号研究者によるパネルディスカッションでも話題に上った。

 初日最後の基調講演「Cryptographer's Panel」には、RSA暗号の開発者であるホイットフィールド・ディフィー氏、システムへと昇華させたRSAの「R」に当たるロナルド・リベスト氏と「S」のアディ・シャミア氏、そしてボイコットしたアダム・ラングレー氏の代役であるマイクロソフトリサーチのブライアン・ラマーキア氏が登場した。

 リベスト氏は「(NSAの行為は)井戸に毒を盛るようなもの。恥ずべきことだ」と述べ、シャミア氏は「米国が監視活動していたのに驚きはしないが、APT側に回ってしまったのは残念だ」とコメント。ディフィー氏も「私は政府は国民を守るものと信じて育ってきた世代。それが裏切られてしまった」と不快感を露わにした。ラマーキア氏は、「1つのデータを確実に手に入れるために、正攻法での提供要請やバックドアの設置など、複数のアプローチを組み合わせて実行しているのに驚いた」と、露骨な情報収集活動を揶揄した。

暗号技術の大家が勢ぞろいする、RSA Conferenceで必見の名物パネル。(左から)司会のポール・コッハー氏、ロナルド・リベスト氏、アディ・シャミア氏、ホイットフィールド・ディフィー氏、ブライアン・ラマーキア氏

 もっとも、「リーク情報を見るかぎり、NSAはバックドアの要請や量子コンピューターの開発を行なっているとあるだけで、暗号化技術が破られたとは書かれたものはない。暗号の数学的な観点と機器への実装問題とを混ぜて議論してはならない」と、シャミア氏は注意する。ラマーキア氏も「まさにその通りで、今回のようなバイパスを防ぐためにも、アルゴリズムを採用するインフラ側で何らかの対策を継続的に考えていく必要がある」と賛同した。

 今後、新しい対策や標準を設ける場合、どこに任せるべきかと司会のコッハー氏が聞くと、シャミア氏は「世界中の信頼を失ったアメリカ政府は、あり得ない」と一刀両断。他のパネリストたちも、技術者などによる標準化団体でオープンに議論する場を設けるべきと提案した。

厳しい視線の中、2日目にはFBI長官が登壇

 カンファレンス1日目にして、アメリカ政府や協力(の疑いがある)企業に向けられた目線は、かなり厳しいことが判明した。そんな中で行なわれた2日目の基調講演に登壇したのは、FBI長官のジェームズ・コーミー氏だ。

 同氏は、「国家安全保障のための監視活動と、個人の自由とプライバシーを両立させることは、重要かつ非常に難しい課題」と本音を漏らし、「関係を改善し良い方向へ進めるには、互いに腹を割って議論し、民主的な意見交換を続けていかなければならない」と、会場に呼びかけた。

議論を通じて、連携するための体制を共に構築したいと述べるFBI長官のコーミー氏

 また、サイバー攻撃が激化する現在、脅威に対抗するには民間の支援は欠かせないとコーミー氏は言及。「今はまだ、官民の双方向で情報交換できる仕組みがなく、政府からの一方的なデータ要請に不満も多いだろう。政府側としても、できるだけ迅速に民間へ情報提供する体制を整えたい」と述べ、2014年中にマルウェア情報を共有するためのデータベースを構築、公開する計画を明かした。

 スノーデンのリークは、政府や企業に対する信頼の失墜と疑念という小骨として、ユーザーの喉に違和感を残し続けるだろう。失われた信用はどうすれば回復できるのか。情報提供に関する明確な基準を設定し、透明性をもって行動を貫くことは本当に可能なのか。そして、デジタル時代の規範とは何か。今回のカンファレンスは、アメリカに限らず、すべての企業のセキュリティに対する考え方を見直させるきっかけとなったのかもしれない。

■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事