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コスト半分で無停止・無制限で増やせるクラウドをください!

アール・アイの“無茶ぶり”に応えたプライベートクラウド

2014年02月05日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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ホスティングサービス「at+link」で高い実績を誇るエーティーワークスの「レンタルプライベートクラウド」は、「業界最安値」を謳う低価格なプライベートクラウド。開発中のサービスをいち早く導入したバックアップソフトベンダーのアール・アイの小川社長に導入までの経緯について聞いた。

リソースを専有できて無駄のないプライベートクラウド

 レンタルプライベートクラウドは、ハイパーバイザーの「KVM」と分散ストレージの「Sheepdog」で構築されたクラウドインフラを月額5万円から利用できるサービス。2コアのCPUを搭載する5台の物理サーバーから構成されており、ユーザーは専用のコントロールパネルから数分でサーバーを構築できる。ネットワークやディスク容量によって料金が変動するパブリッククラウドと異なり、仮想マシンを何台作っても定額で済む。もちろん、カスタマイズも自由で、リソースやデータをユーザーが完全に専有できるのもうれしい。

 このレンタルプライベートクラウドを開発・販売するエーティーワークスは「at+link」ブランドで幅広くホスティング・レンタルサーバー事業を手がけており、国内で2万台以上の実績を誇るという。サービスの企画や販売はもちろん、サーバーの開発やデータセンターの運用まで、すべて自前で行なっているのが特徴。省エネ・省スペースを重視した「赤いサーバー」の開発元といえば、わかる方も多いかもしれない。

 レンタルプライベートクラウドの導入を検討しているのは、パブリッククラウドを牽引してるAWS(Amazon Web Service)をすでに利用していたり、利用を検討しているユーザーだという。エーティーワークス 営業本部 営業部 部長 高瀬由照氏は、「パブリッククラウドは安く見えがちですが、ある一定のインスタンス数になると、それほどコストパフォーマンスが高くなりません。CPUやメモリ、HDDの量で費用が決まってくるので、契約したリソースをうまく使いきれないところが問題かと思っています」と語る。これに対して、閉じた環境で構築されたレンタルプライベートクラウドでは、ユーザーがリソースを専有できるので、無駄がない。また、データの置き場所やサポートなどに不安を感じるユーザーにもオススメできるという。「at+linkの経験を活かし、フルマネージドに近いサポートをクラウドでも提供します。クラウドの分野でも、かゆいところに手が届く業者になりたいと思っています」(高瀬氏)。

エーティーワークス 営業本部 営業部 部長 高瀬由照氏

 そして、もう1つの大きなポイントは、VMwareではなく、KVMやSheepdogなどのOSSをベースにしている点。「やはり弊社としてはOSSにこだわりがあります。OSSで構築したシステムなので、ライセンス費用が発生しない分、価格に反映し、お客様へ還元します」(高瀬氏)という。

純国産のバックアップソフトを展開するアール・アイ

 このレンタルプライベートクラウドをいち早く導入し、クラウドバックアップサービスのインフラとして使っているのがアール・アイだ。

 2005年に設立されたアール・アイは国内唯一ともいえる純国産のバックアップソフトベンダーで、現在は個人ユーザー向けの「AirBack」と企業向けの「SecureBack」の2種類の製品を展開している。アール・アイ代表取締役の小川敦氏は「集中管理型のSecureBackは、一部上場会社も含め、国内では1000社以上の導入実績があり、重要なデータをお預かりしています。2011年9月に発売したスタンドアロンのAirBackは、現在5万台くらいのコンピュータで使われています」とアピールする。

アール・アイ代表取締役の小川敦氏

 アール・アイのバックアップ製品のユニークな点は、クラウドへのバックアップを前提にしていることだ。「創業当時の2004年、新潟県中越地震が起き、その後BCPの概念が急速に普及し、企業データを遠隔地に保存するDR(Disaster Recovery)が検討されるようになりました。こうしたニーズは恒久的になると考え、われわれも単なるバックアップソフトだけではなく、包括的な災害対策まで提供しようと考えました」(小川氏)。

 もちろん当時からバックアップソフトとデータセンター、SIを組み合わせたDRのサービスは存在していたが、実際はエンタープライズ向けだったので、高額だった。そこで、中小企業をターゲットに自前で安価なサービスとして生まれたのが、クラウドバックアップの機能を持つSecureBackである。こうして、更新されたデータをセキュアに伝送できるバックアップソフトを開発し、データセンターと契約してバックアップのサービスを提供するようになる。2005年当時にこうしたサービスを展開していたアール・アイは、かなり先進的といえる。

クラウドインフラを自前で構築する必要性

 サービス開始当初からコロケーションでシステムを構築していたアール・アイだが、クラウドサービスの台頭と共にコスト感が変化してくる。小川氏は「2010年くらいには、自前のインフラよりも、クラウドサービスの方が明らかに安くなってきました。また、法人向けのSecureBackの場合、100GBや1TBなど1契約あたりの容量が大きくなってきたので、固定的なインフラだと、お客様のニーズに即座に答えらなくなってきたんです」と当時の課題をこう語る。こうした課題を抱えていた同社は、2012年の夏くらいからクラウドへの移行を本格的に検討し始めたという。

 コストや拡張性の課題がメインだったので、最初に検討していたのは安価なパブリッククラウドだった。同社はAWSをはじめ各社のプライベートクラウドを試用したが、結果としてバックアップサービスとして要件を満たせなかったという。「Webアクセスと異なり、バックアップデータは実データが飛ぶので、快適なレスポンスを担保できないと、サービスレベルを満たせません。その点で、試用したパブリッククラウドには課題がありました」と小川氏は語る。

 また、パブリッククラウドの場合、バックアップソフトが利用するプロトコルという面でも課題があった。「SecureBackは転送エンジンが独自で、NTFSのAPIを使うのですが、実態に近いNTFSをサポートしているパブリッククラウドは国内にはありません。RESTでやろうとすると、バックアップソフトで必要なリネームやムーブといった操作が難しく、パフォーマンスも落ちます。国産のクラウドで何度かチャレンジしたんですけど、どうしても性能が出ませんでした」(小川氏)。この結果、同社はパブリッククラウドの利用を断念し、プライベートクラウドを自分たちで構築する道を選んだという。こうしてプライベートクラウドの導入を模索していたアール・アイが最終的にパートナーとして選んだのがエーティーワークスだ。

赤いサーバーで構成されたレンタルプライベートサーバー

バックアップサービスのクラウド化をゆだねる

 アール・アイがエーティーワークスに行き着いたのは、大手CPUメーカーのプロジェクトに端を発する。小川氏は、「特定のPCを買うとクラウドバックアップ1年分の使用権が付いてくるというキャンペーンを弊社が請け負いました。そのときシステム構築のためにそのCPUメーカーさんが紹介してくれたのが、エーティーワークスさんだったんです。エーティーワークスさんはそのCPUメーカーさんにとって重要なパートナーだったようで、SSD導入事例でも取り上げられていたんですよね」と語る。結果として、アール・アイはエーティーワークスの専用サーバーを使って、コンシューマー向けクラウドバックアップのインフラを作り、キャンペーンを乗り切った。この実績を元に、かねてから課題だったバックアップサービスのプライベートクラウド化をエーティーワークスでできないか打診したのだ。

 小川氏からの相談を受けた高瀬氏は、「キャンペーン開始から1年が経ったときに、小川さんから『今払っている費用の半分で、無制限・無停止でスケールアウトできるクラウドを用意できませんか』と言われました(笑)」と振り返る。こうしたタフな条件を出した小川氏は、「キャンペーンの時はある程度原資があったのですが、期間が終わったら、自前でサービスを継続的に運用していかなければなりません。こうした中、1GBで10円のようなパブリッククラウドのコストを知っているお客様からいただける料金を考えると、インフラコストを半分に抑えるしかありませんでした」と語る。

 もちろん、杓子定規に考えれば、こうした“無茶ぶり”に応えられるはずもない。だが、結果としてエーティーワークスはこの仕事を請け負った。折しもコストパフォーマンスの高い「レンタルプライベートクラウド」の開発が最終段階を迎えており、社内でも開発フェーズから検証フェーズに移っていた。こうした経緯があったため、「まだ開発中のサービスですが、費用は半分にできます。スケールアウトもできるので、これでいっしょに挑戦しませんか?と小川さんに提案したところ、ご快諾いただいたんです」と高瀬氏は語る。

開発中のサービスですが、いっしょに挑戦しませんか?と提案したんです(高瀬氏)

 小川氏も「大手のクラウドの場合、あらかじめ設定されたインフラの中での自由はあるのですが、障害が起こっても、あくまでこちらの対応ですし、融通に欠けます。でも、いっしょに仕事した経験上、エーティーワークスさんがとにかく柔軟性が高いのはわかっていました」と応える。

(次ページ、既存のサーバーを活かしてクラウド構築)


 

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