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10億円ビジネスの秘密は印刷機の「仮想化」

2014年01月24日 07時05分更新

伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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名刺やチラシなどの印刷通販を手掛けるサービス「ラクスル」が絶好調だ。2013年から本格展開したサービスは、毎月の注文件数は前月比3割以上のペースで増え、今期の売り上げは10億円程度を見込む。市場規模は6兆円と大きいながらも、大手2社を除いた市場を3万もの中小企業が奪い合う印刷業界の構図にいびつさを感じたという代表取締役の松本恭攝氏。急成長の秘密は供給の「仮想化」だ。

ラクスル株式会社 代表取締役社長 松本恭攝氏。

――「印刷通販サービス」という形でビジネスを始めた理由は

 図書関連の印刷の需要は減っていますが、印刷業界全体の市場規模は6兆円と大きい。町を歩くとたくさんティッシュを配っているし、ポストを開けるとチラシが投函(とうかん)されています。新聞も部数は減っていますが、間に挟まれているチラシは多い。ネット化は進んでいても、ネット企業ですら名刺を作っているので、紙の需要は確実にあるんです。

 でも、印刷のような装置産業は非常にお金がかかります。印刷機は1台1億円するものもあります。また、印刷機それぞれで出力できる印刷物は違っていて、例えばチラシは刷れても封筒は刷れなかったり、封筒を刷れる印刷機はポスターや名刺が刷れないなんてこともあります。初期投資でお金がかかる以上、中小の印刷会社が一社で全てをそろえるのは難しいんです。

 しかも、印刷機の実際の稼働率は4割程度。3月は企業の年度末の予算消化ということもあって非常に忙しくなるのですが、5~6月はほとんど印刷機を動かさないといった季節変動が激しい。
 供給過多で設備が遊んでいる時間が多い状況では、供給を持つことよりも需要を確実に押さえる方が価値として大きい。インターネットで印刷需要を押さえることができれば、設備投資をしなくても「仮想的」に印刷機を持つことでビジネスを回せるという根本の発想がありました。

――サービスを開始してからの反響はいかがですか?

 印刷物を注文したことない方々が利用されていることは驚きでした。実際にどういう注文が来ているかというと、個人経営の飲食店のランチやサッカー教室を案内するといった小ロットのチラシです。

 これらの注文は版が小さいので印刷会社の印刷機で刷ると紙のロスが発生しやすいし、印刷機を稼動させること自体にもコストがかかるので、注文1件あたりの利益額は小さくなる。そのため、印刷会社が積極的にビジネスしてこなかったという背景がありました。でも、インターネットで受け付ければ全国から小ロットの注文が集まる。同じ仕様であれば一つの版に複数の印刷物を付け合わせて同時に刷ることができます。

――インターネットで注文を集めて、実際に刷るのは提携する印刷会社という仕組みはすぐに理解されましたか?

 印刷を請け負ってくれるパートナー探しには3年かかりました。現在のサービスを本格稼働させる前に、印刷会社が無料で登録して、利用者に対して見積もりを出せるサイトを運用していたんです。信頼関係を構築しながら、生産面や品質面、条件面が合う印刷会社を見つけていきました。

ラクスルのウェブサイト。「楽に刷る」が社名の由来になっている。

――提携する印刷会社からの評判は。

 新規の仕事の8割がラクスルという印刷会社や、ラクスルからの注文が増えたから印刷機を買い増しできたという印刷会社もあります。ただし、われわれはお客さまにクオリティーの高い印刷物を届けるのが目的なので、単価が安いという理由だけで印刷会社に発注していません。

――ラクスルの、供給を「仮想的」に持つビジネスはほかの業界でも応用可能でしょうか。

 応用可能だと思います。ラクスルの現在のサービスを提供するにあたって、参考にしたのはミスミです。自社では工場を持たず、中小の製造業者に製造を委託し、昔はダース単位でしか買えなかった部品を単品販売している。ミスミの「持たざる経営」を印刷業でやろうと考えました。24歳で起業して銀行融資を受けられなかった当時の私のような、資金不足でリソースを持てないスタートアップにもちょうどいいです。


仮想化」とはそもそも、クラウドコンピューティングの世界では、「物理的なハードウェアをOSから分離し、ソフトウエア内で論理的に実現する」技術を指し、1台のコンピューターで複数のOSを動かしたり、複数のコンピューターを1台であるかのように扱える。ラクスルは複数の印刷業者と提携し、インターネットからまとめて注文を受け付けることで、「仮想的」に供給を持ち、どんな印刷にも対応できる一つの印刷通販サービスとして急成長を遂げた。

 ラクスルに限らず、急成長を遂げたスタートアップには共通項がある。それは「仮想化」をはじめとするクラウドコンピューティングの発想をビジネスモデルに取り入れていることだ。弁当宅配「ごちクル」を運営するスターフェスティバル、貸し会議室のティーケーピー、ニュースアプリのスマートニュース――彼らのクラウドコンピューティング発想の「妙技」は、アスキークラウド2014年3月号(1月24日発売)でぜひご覧いただきたい。


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