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サイボウズ、さくらのトップが熱血対談!日本のITを斬りまくる 第3回

10年後を見据えた日本のあるべきクラウドの姿を占う

グローバル化とビッグデータの時代、日本のITはどうなる?

2014年01月27日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「運用の8割はノウハウ。ソフトウェアは本質ではない」(田中)

田中:その点では、私たちもやらないことが3つあります。まずは「受託はやらない」「人材派遣をやらない」。まず受託でお客様ごとに作るのは生産性も低いし、エンジニアを安くこき使うみたいな派遣仕事は申し訳なくてやれません。

青野:確かにそれはイヤですね。

田中:3つ目の「自社ソフトをパッケージで売らない」というのがポイントです。よくうちも運用管理のソフトウェアを売ってくれと言われるんですが、ソフトウェアが運用に占める割合って実は2~3割程度しかないんです。あとの8割はノウハウ。ソフトウェアは本質ではないんです。うちの社是にも「卓越したオペレーション」ってありますが、そこを突き詰めようとしています。

青野:そういう5%、10%を確実に積み上げていく改善って、やはり長期雇用が重要ですね。どのパラメータをいじればよいか、きちんと現場で知っている「匠」を育てていく必要があります。

田中:そうですね。データセンターのラック貸しに注力してきた頃は、労働力をいかに低賃金で持ってくるかが重要でしたが、これだとどうしても労働集約的になります。それがいやで、大きなデータセンターを回せる人数をきちんと長期雇用するように変換したんです。最近は派遣社員を直接雇用にしているので、ノウハウも溜まってきます。昨年から、2割近く社員が増えていますね。

「出生率を上げない限り、日本は沈没し続ける」(青野)

大谷:イノベーションという観点では、サイボウズは働き方やワークスタイルという部分で革新を進めていますね。

青野:最近、ITの会社はワークスタイルを売り始めています。先日、日本マイクロソフトさんにお邪魔して、オフィスを見学したのですが、最後のアンケートで「あなたの会社は移転する予定がありますか」とか聞かれるんです。結局、オフィス移転のタイミングがIT刷新のタイミングだからなんですが、もはやハードウェア、ソフトウェア、サービスだけではなく、働き方まで揃わないとITって売れないんですよね。シスコさんがコラボレーションの本を出しているのも同じ理由です。

もはやITは働き方まで揃わないと売れなくなっている(青野)

田中:確かにITといっしょに働き方まで売ると、ロックインしやすいのかもしれないですよね。PCを使った仕事だって20年前はなかったし、ネットで調べ物という方法もここ10~15年です。そう考えると、10年後を見据えて、ITで変えられることって、けっこうあります。

青野:個人的な意見では、日本の停滞している最大の理由は「少子化」。出生率が1.2とか、1.3とかで、若い人が多くの老人を支える構造が変わらないと、もう好景気は来ません。じゃあ、なんで少子化が進むかというと、やはり会社に縛られているから。「女性は家から働けません」「男性は朝から晩まで会社にいます」という状態では、子育てしながら働くのは難しい。ワークスタイルを変革して、出生率が上げない限りは、日本は沈没し続けます。

田中:確かに。先日出産で会社を辞める女性に、在宅勤務できないかと聞いたら、お姑さんの目もあるしなかなか難しいと言っていました。会社だけじゃなく、社会全体が変わらないと、この課題は解決できないと思います。

大谷:昨年、親の介護のために地元に戻って、クラウド使って仕事やっている人の記事書きましたけど、根は同じですね。クラウドって、ライフスタイルや仕事のやり方を変えるので、やはりすごいと思います。

青野:はい。クラウドって運用管理のメリットばかり強調されますが、文化的に与える影響はとてつもない。手元になくても仕事ができます。他の会社からもアクセスできます。モノもアクセスできます。クラウドすごいねえ!と。

田中:私もデスクトップが大阪にあります。

青野:うわ、かっこいい! VDIですね。

田中:最近、新宿のオフィスもフロア行ったり来たりが面倒なので、シンクライアントにしたら、PCじゃなくても全然使えました。次のステップは、デスクトップをデータセンターに置こうと思います。ユーザーエキスペリエンスはむしろよくなるし、消費電力も減りますよね。

「サラリーマン社長だとイノベーションは難しい」(田中)

大谷:さくらインターネットが石狩データセンターでやっている直流給電とか、自然エネルギーとか、超伝導の実験とかは、社会を変えるイノベーションですよね。

田中:はい。これらの技術自体は何十年もあったのですが、社会で認められなかったんです。当社は片っ端からそれを採用し、電力消費量を半分に落としました。石狩データセンターは、毎月電気代だけで1000万円払ってますけど、元のままだったら、普通に年間1億円多く払わなければならないわけです。1億円減った結果として、開所から2年でもう利益が出ている。こうなるとイノベーションにつながります。

青野:確かにそうです。

田中:今やっているのは、太陽光発電を普通の電力並みに落としていこうという取り組み。今だと確か42円なので、サステイナビリティがありません。作れば作るほど社会が悪化します。でも、それが10数円で提供できたら、社会を変えるイノベーションです。日本は技術はあるけど、モデルがないので、弊社は両輪でイノベーションを作っています。最近は海外からも見学の方が増えていますし、それは社員のモチベーションも高めます。

青野:そういうモチベーションって、どうやって醸成するんですか?

田中:2つあります。まず創業者社長が残っているので、多少突飛なこと言っても、社員が我慢してくれます(笑)。経済合理性だけで動く、サラリーマン社長だと難しいですね。

青野:なるほどねえ。田中さんとシンクロするのは、技術者の血かもしれません。私ももともとプログラマーでしたし、パソコン少年でしたし、新しい技術を見たときの反応が似ているでしょう。「面白そう」「うまく行かないかもしれないけど、試したい」「失敗する確率が高い方が萌える」というのは、ありますね。

田中:技術にワクワクする感覚って、すごい重要ですよね。あと、もう1つは、どの会社にも面白いことをやりたい社員はいるので、それをうまくピックアップできたことです。でも、これって別に難しいわけではないですよ。

田中さんとシンクロするのは技術者の血かもしれません(青野)

(次ページ、「クラウドで人とモノの壁を越えることができる」(青野))


 

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