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体感温度をコントロールするエコ住宅の新潮流

2014年01月15日 07時00分更新

文● 寺田祐子(Terada Yuko)/アスキークラウド編集部

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長崎県佐世保市のハウステンボス内に完成した省エネ型の実験住宅は、東京大学生産技術研究所の川添善行講師らが中心となって完成。鉄パイプを束ねた輻射パネルを使い、人体に直接熱を伝えることで、開けっ放しでも快適に過ごせる画期的な家をつくることに成功した。川添講師に実験住宅をつくった経緯と今後について話を聞いた。

川添善行

東京大学生産技術研究所 川添善行講師(撮影:小川重雄)

──輻射熱を利用した画期的な住宅だそうですね。

 空調がいらない新しいライフスタイル、空気体験を提供できる家です。エアコンなしで快適に過ごせます。輻射熱とは、太陽から地上に熱が届くのと同じ原理で、物体の熱を直接人体に伝えます。建物の内部には、全長400mくらいの鉄パイプを束ねた輻射パネルが建物を力学的にも支える構造を採用しているのですが、パイプの中を冷温水が流れ、その熱により体感温度をコントロールするのです。温めるエネルギーだけで、空気を送り出すエネルギーが必要なくなる分、非常にエコになるというわけです。

──実際に建築してみて想定外の出来事はありましたか?

 足下に結露ができてしまったことがありました。設計段階から、除湿効果を得るため側面の鉄パイプはわざと結露させる仕様になっているのですが、熱はあらゆる部分を伝わるため思わぬ箇所まで結露してしまいました。断熱材を撒き直す等の修繕をしたので、今はまったく問題ありません。

 また、想定以上の効果があったため、暑くなりすぎたり、寒くなりすぎたりと、目標を超えてしまうこともありました。空調ならシミュレーションできて、室温を25度にしましょうと設定できるのですが、輻射パネルの場合は、表面の温度調整はできるけれど空気の温度を直接的にコントロールするわけではない、というのが難しいところ。経験だけしか頼りになるものがありません。しかし、実際に試しながら、循環温度を上手く調整できるようになりました。今では、(実験住宅で暮らしているハウステンボスの澤田秀雄社長も)すっかり空調のない生活に慣れているようです。

実験住宅

ハウステンボス内の実験住宅

──造船業の鉄パイプ技術を利用されたとか。

 鉄パイプは佐世保の造船業で培われた水漏れしない溶接技術が使われています。造船業では大型船のエコシップ、いわゆるタンカーのおばけみたいな船もあるのですが、造船できる場所は呉などに限られていて、そのサイズは佐世保にはあまり向いていない。その一方で、佐世保が得意とする中小船舶は減っていて、押されぎみなのです。入り組んだ湾とドッグといった、佐世保の風景が失われてしまう。そこで、地元の技術を生かした住宅を作ろうと思いました。今の佐世保だからこそできる建物です。

 造船業の溶接技術は本当にすごい。建物に利用した鉄パイプは全長約400mで、途中で枝分かれしているのですが、メインの配管を通しつつ均等に水を流すためには、造船業の技術と流体に関するノウハウがなければ実現できなかったと思います。

 体感温度をコントロールするので、窓を開けていてもいいのです。今年5月に完成したのですが、現在も計測中。もうすぐ1年分のデータが揃うので楽しみです。今のように、自分の部屋だけ涼しければいいというのはエゴに感じます。いろいろ古い資料を見ていると、東京・オリンピックの時に気温がグッと高くなったようです。その前は、夕方は涼しくて縁側でみんなお酒を飲んでいて。そうした環境とそれを可能にする建築形式がありました。21世紀に同じ生活をすることはできませんが、最新の技術を用いながら日本に本来からあった暮らし方を取り戻していくことができたらなと思います。

 アスキークラウド2月号(12月24日発売)の特集「研究者18人に聞いた日本の先端技術」では、川添講師が今注目する先端技術と輻射熱を利用した画期的な実験住宅の内容について紹介しています。


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