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データで見る IBMがアマゾンAWS追撃にこだわる理由

2013年12月31日 07時00分更新

文● 福田 悦朋(Fukuda Yoshitomo)/アスキークラウド

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既存のエコシステムを破壊するパブリッククラウド

 そうしたAWSの成長にストップをかけ、パブリッククラウド市場での地位とプレゼンスを早急に高める――その戦略の一環として、IBMが2013年7月に買収したのがSoftLayer Technologies社(以下、SoftLayer)だ。IBMではこれまで、プライベートクラウド(特定の企業が占有するクラウド型のITインフラ)、あるいは「基幹システムのクラウド化」という枠組みの中で、中堅から大手企業をメインターゲットにしたクラウドコンピューティングのビジネスを展開してきた。この事業を支える1つは、「IBM SmarterCloud Enterprise+(以下、SCE+)」と呼ばれるクラウドサービスであり、管理された環境の中で、ERPアプリケーションやデータベースアプリケーションの安全、かつ安定した運用を行うとされている。このサービスは、ある意味で、従来からあるアウトソーシングサービスの延長線上にあり、AWSのサービスとは異質なものと言えるだろう。だが、SoftLayerのサービスは、AWSと真っ向から競合する部分の多いデータセンターサービスだ。具体的には、米国/アジア/欧州に配備された17拠点のデータセンターを通じて、Webサイトのホスティングはもとより、IaaS(Infrastructure as a Service)/PaaS(Platform as a Service)のサービスをグローバルに提供しているほか、物理サーバーのホスティングもクラウドサービスのスキームの中で展開している。

SoftLayerのネットワーク

SoftLayerのネットワーク。

 SoftLayerは、プライベートクラウドのサービスも提供するが、基本的にはパブリッククラウドのサービスプロバイダーである。そのサービスには、オンライン上のクレジットカード決済で利用が開始できるという手軽さもあり、IBMのこれまでのサービス――どちらかと言えば、重厚長大なサービス――とは明らかに違う。
 言うまでもなく、この種のクラウドサービスは、より多くのユーザーに、より多くのリソースを使わせ続けることで収益を上げる事業だ。ビジネスモデル的には、電気や水道、通信キャリア、あるいはコンシューマー商品のそれに近い。
 一方、中堅/大手の企業に向けたハードウエア/ソフトウエア製品の販売/インテグレーションのビジネスは、(少し乱暴に単純化すると)「巨額の収入を、限定的な数の顧客にモノ/サービスを売り切ることで作る」というものだ。この種のビジネスでは、少数の顧客に対して、いかにリッチで、個別ニーズに合致したモノ/サービスを、組織だった体制の下で提供できるか否かが勝負の分かれ目であり、パブリッククラウドの事業モデル――すなわち、「月当たり数千円、あるいは数万円の標準化されたサービスを拡販し、長い歳月をかけて売上を積み上げていく」といった事業モデルとは大きく異なる。したがって、前者のモデルから後者への切り替えは簡単に成しえるものではない。少なくとも、セールスの体制や意識、スタッフの評価制度も含めて、内部的な構造を大きく変えていく必要がある。
 しかも、パブリッククラウドのサービスは、既存のハードウエア/ソフトウエアビジネスと、それを取り巻くサードベンダー(SIer)のエコシステムを瓦解させるリスクを内包しているうえ、(サービスの爆発的なヒットがない限り)ビジネスの立ち上げから、利益を上げられるようになるまでに相応のときと投資がかかる。

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