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非接触ICの普及が進まない米国でモバイルコマースはどう進展する?

2013年12月16日 15時00分更新

文● 末岡洋子

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 小売業がスマートフォンなどのモバイル端末をどう活用するか……2~3年前なら「NFC」「おサイフ機能」といったキーワードが出てきたが、少なくとも米国ではモバイルアプリやクーポン、クレジットカードリーダーとしての利用などが拡大しているようだ。

 それどころか、米国でGoogleが開始した「Google Wallet」については、参加企業から「利用は事実上ゼロに等しい」という声も聞かれる。

 11月中旬、米サンフランシスコで開催されたモバイルイベント「Open Mobile Summit 2013」でモバイルコマースをテーマとしたパネルが開かれた。参加したのは、Squareでプロダクト開発トップのGokul Rajaram氏、Googleでモバイル上での検索とディスプレー広告分野の製品戦略を担当するBrendon Kraham氏、化粧品小売りチェーンSephoraのモバイル・デジタルマーケティング担当ディレクター、Johnna Marcus氏、デパート大手Macysのマーケティングと分析担当バイスプレジデントのDarren Stoll氏の4人。モデレーターはベンチャーキャピタルRelay Venturesのパートナー、John Occhipinti氏が務めた。

アメリカで開催されたモバイルイベントでのコマースに関するパネルでは、日本ではモバイル&コマースと言って、すぐに頭に浮かぶ、非接触IC技術の活用などについてはほとんど話題とならなかった

単なるモバイルの活用ではなく
クロスデバイスを重視

 このパネル内では、NFCによる日本のおサイフケータイ的な利用について触れられることはほとんどなかった。Google Walletに参加しているMacysのStoll氏は、「Google Walletの利用はゼロに等しい」と語り、顧客はモバイル端末を決済に利用するのではなく、「店内でのショッピング中に情報を調べたり、レビューを読んだりしている」と続けた。

 SephoraのMarcus氏は、モバイルの役割として、端末でのネットショッピング、店内でのショッピング時のモバイル利用の2つがあるとし、Google Walletのようなサービスについては「魅力的な方法だが、Sephoraの顧客はコンピュータ通ではなく、話題になっていないようだ」と述べた。「初期顧客がたくさん増えてどんなメリットがあるのか、価値をもたらすのかを示さないとスタートしないのでは」と分析した。

 では、モバイルとコマースという組み合わせで起きていることは何か? そもそもモバイルというくくりで考えること自体に無理があるようだ。SephoraもMacysも、モバイル、タブレット、PCとさまざまなデバイス、そして店内とさまざまなところで購入や購入に至ための活動が行なわれているとしている。

 MacysのStoll氏は「スマートフォンでMacysアプリを起動した場合、デスクトップから(ネットショッピングサイトに)アクセスして購入する可能性が高くなることがわかった」「これまではトラフィックの増加やコンバージョン比率をみてきたが、これでは成功は測定できない。Eコマースの成功に対する考え方が根本から変える必要がある」とする。モバイルトラフィックについては、タブレットは前年比200%増、スマートフォンも100%以上の増加で、この2つのデバイスを合わせたトラフィックが40~50%に達しているという。

 SephoraのMarcus氏は、「来店、デスクトップからアクセス、モバイルアプリでウィッシュリストを作成……ユーザーが利用したいところからコマースが始まる。我々としては、どの局面でも対応したい」と述べる。これらを串刺しにするのが、ロイヤリティープログラムなのだという。

 これらの話をGoogleのKraham氏がまとめる。モバイル版ウェブサイトから、ショップ(への来店)、アプリ、そして携帯電話での通話だ。通話については、「(クリックして電話がかけられる)Click to Call広告は毎月4億件発生している。新しい購入パターンになっているのではないか」と見ている。これらの方法からモバイルの成功を見る必要があるとした。

店内でのモバイル利用が増加
小売りはどう活用する?

 SephoraとMacysの両氏がもう1つ共通して挙げたトレンドが、(リアル店舗の)店内でのモバイル利用だ。MacysのStoll氏は、増えるモバイル利用を活用すべく、店内でのサービスとツールの提供を進めていると述べる。

 その一例がストアマップだ。「どうやって容易にショッピングしてもらうか――現時点では便利なツールの側面が強いが、今後はインスピレーションを与えるような施策を打ちたい」とStoll氏。またビジュアル(画像)検索、写真を元にしたシミュレーションなどの最新技術にも興味を見せた。

 SephoraのMarcus氏は、「オンラインはリアル店舗にとって脅威という見方がされていたが、そうは思わない」と語る。リアル店舗利用者の60%がモバイルでウィッシュリストをつくったり、製品についてリサーチするなどの“プリショッピング”活動を行っているという。

 Sephoraでは相乗効果のために「コンテンツのキュレーション」を強化していると取り組みを示す。具体的には、単にマニキュア、マスカラなどの“製品”を売るのではなく、ユーザーに役に立つ情報やトレンド、使い方のポイントなどの情報提供やストーリーの提供だ。「ユーザーは価格情報だけを探しているのではない。満足したと思える情報を求めている。オンラインでもリアル店舗でも、これを入り口にしたい」(Marcus氏)

 GoogleのKraham氏は基本的な問題を2つ指摘した。1つ目はモバイルサイトで、「さまざまなタッチポイントを持つことが大切との理解が広がっている、だが大手企業ですらモバイルサイトをもっていないところがある」と言う。2つ目はデータの活用だ。「ビックデータを意味のある情報に変える、橋渡し役が必要だ」とする。

 データの収集そのものは低コストで実現するが、データサイエンティストを起用するなどして、意味のある情報に変える部分はまだまだ敷居が高いという。「まずは現実的なフォーカスが必要だ。自社の問題はなにか、なにを解決しようとしているのか」と助言した。

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