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プロライターがソニーRX10に見るデジタルの可能性

2013年12月01日 12時00分更新

文● 四本淑三

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仕事カメラに必要な性能

 さて、一通り使ってみて、いいところ悪いところ面白いところがハッキリしたように思いました。

 35mmフィルム換算で24-200mm、通しでF2.8というレンズの搭載は、レンズ交換式のカメラに対する挑戦とも取れます。いみじくもフルサイズセンサーを積んだ「α7」「α7R」と同日発表、同日発売というのも、そんな対比の構図を感じたわけですが、これは私の考え過ぎかも知れません。しかし、ここで我々消費者は試されているのだろうと思います。

 35mmフィルムフォーマットと同じ大きさのフルサイズセンサー機は、売れるタマ数こそ少ないとは言え、高い価格を付けられる。だからメーカー様にもメリットのある商品でしょう。ユーザーの私共といたしましても、高解像度、高画質、そしてセンサーの大きさからくる被写界深度の浅さにより、アウトフォーカス部分をコントロールする楽しさがある。いわゆる「ボケ」ニーズは高い。私もそうしたニーズを隠し持っています。

 しかし、私ごとき者の仕事カメラにフルサイズ機はトゥー・マッチなのであります。もし私がα7だのα7Rだのを買ったら、マウントアダプターを買って古いレンズを付けて遊ぶのが関の山。お金を使って遊んでばかりで仕事しないから貧乏になる一方です。

 仕事カメラに必要なのは「必要な物が写っていて、見る人にそれが分かること」。プレミアムおまかせオートに入れておけば、だいたい写ってしまうイージーな性能。軽く持ち運びに苦労がなく、ごく普通の取材現場ならレンズ交換する煩わしさがない。道具というものは、仕事中は可能な限り、空気のような存在であって欲しいわけです。それでいて、いざとなったら設定やマニュアル操作で細かい要求に応えられる。RX10はそのようなカメラであると思います。

どれくらい描写が違うのか、今までの仕事カメラであったPENTAX K-5に「この汚れた地上に存在する善きもの邪悪なものを分け隔てなく現象として美に変換する装置」であるところのFA31mmF1.8AL Limitedを付けてY子さんを撮ってみました。イメージセンサーのサイズが4倍も違い、かつF値も違うレンズを比べるのはナンセンスですが、あっ……。PENTAXのシステムをすべて売却しようと目論んでいた私は、ただいま激しく迷っています。悔しいので小解像度でお届けします。絞り開放でISO200であります

 しかし、ある場面においてこれしか無いという尖った性能を持つものには、やはり敵わない。だからフルサイズでなければ仕事にならないという方々もいらっしゃるでしょう。たとえば東京モーターショーのコンパニオンのみなさまを撮影されるようなスーパーな方々には、ぜひ最新のフルサイズ機を持っていただき、可能な限り大きな解像度での掲載を続けていただきたい。

 その一方で「デジタルならではの可能性はこっちにもあるよ」というのがRX10のポジションでしょう。レンズとセンサーの最適化設計が可能な一体型の強みを活かし、1インチセンサーで「使える画質」が得られたわけです。このままさらにレンズ設計やセンサー技術が進めば……という可能性があります。また一方で、作画力や撮影テクニック、そして趣味人に響くレンズ交換式のフルサイズ機がある。そのどちらもが選べるという、こんないい時代が長く続いて欲しいと私は願っています。

しかしレンズもろとも陳腐化してしまう危険が!

 ここまで讃え続けててまいりましたが、もちろんレンズ一体型にはデメリットがあります。落とし穴と言っても過言ではありません。

 日進月歩のデジタル機器には避けようもないことですが、デジタルカメラは1年もすれば陳腐化します。特に開発スピードの速い貴社製品はそうです。その際、カメラもレンズも全部買い換えなければならない。何か当たり前のことを言っているようですが、レンズ交換式のカメラシステムなら、ボディーだけ買い換えれば済むわけです。

 しかし、レンズが技術革新により急激に陳腐化することは、あまり考えられません。それが証拠にFマウントやKマウントが生き続けています。アダプターを使えば、M42やら何やら大昔のレンズですら現代のデジタルカメラに使えるわけです。つまりレンズは資産として生き続ける。

 新型が出たら全部ご破産。その点が、実売で12万近くするレンズ一体型カメラに対する不安です。

 先にみなさまへ「ここ何とかなりませんか?」的な苦言も若干述べさせていただきましたが、まずは適当に聞き流して頂いて結構です。むしろ、あまり早く改良版を出されますと私は泣きますので、更新はファームのアップデート程度に留めていただき、後継機を出される場合は、適当な間合いを見計らっていただけると助かります。

 ともかくRX100並みの性能を持つ、テレマクロ撮影の可能な電子ビューファインダー付きのカメラが欲しいという、私のニーズは満たされました。簡単な取材ならRX100だけ、状況が読めない場合はRX10も持っていくというシフトで、取材機材の重量は最大で2kg、最小でも1kg程度の軽減を果たしたわけです。これが私の毎日をどれだけ楽にしてくれることか。

 今はパノラマ撮影モードが面白くて困っています。最近はカメラを持っているという理由だけで職務質問を受けてしまう物騒な世の中ですが、先日もこの機能を試そうと街なかでクルクル回っていたら、パトカーに追跡され、怖いお巡りさんに囲まれました。レンズ設計やセンサー技術の躍進と共に、カメラを持った変な人が公権力の介入を受けない平和な世の中になることを望んで止みません。

 年末ご多忙の折ではございますが、ソニーの皆様も、お体にお気をつけて良き年をお迎えください。

敬具


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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター、武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。インターネットやデジタル・テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレ。


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