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ゴム足だけでも30個のサンプル。小型化・薄型化に詰まった工夫とは?

ThinkPadの再設計とはネジ1本さえ再設計するということ

2013年11月14日 18時00分更新

文● 貝塚怜/ASCII.jp編集部

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CS13世代ThinkPadの設計全体を担当した第一ノートブックシステム設計担当部長の塚本泰通氏(写真左)と、ThinkPad X240/240sの機構設計を担当した内野顕範氏(写真右)

 「ボールペンを使っているときにバネのことを考えるやつは少ない。しかしバネだって設計する誰かがいて、役割を果たすべくボールペンに組み込まれている。世の中はそうやって、意識しないところにある誰かの努力がうまいこと回している」と、高校時代、政治経済科の教師が言っていたことをときどき思い出す。

ThinkPadにとっての再設計とは、ネジやゴム足さえ設計しなおすということ

 ThinkPad Xシリーズの新モデル「ThinkPad X240」は、前モデルのX230と比べて、約25%のバッテリー駆動時間の向上を果たし、約25%薄型化している。「いささか進化し過ぎでは?」と思ってしまうほどの進化はどのようにして実現したのだろう。レノボ・ジャパン 大和研究所の開発担当者に話を聞いて見えたのは、まさに“ボールペンのバネ”を意識せざるを得ない、ThinkPadの秘密だった。

ドッキングステーションに載せたThinkPad X240

—CS13世代のThinkPadは歴代機と比べて、かなり完成度が高まっているように思えました。デザインが洗練されましたね。

「X240は『CS13』世代の第1弾で、前モデルは『CS09』世代に位置づけられるモデルです。CSというのはClean Sheetの略で、白紙の状態から設計しなおすことを意味します。型番こそX230の後継ですが、デザインも含め、一から作りなおしたかたちですね。そう考えると、およそ4年ぶりの完全なフルモデルチェンジということになります。例えば今回、ゴム足1つとっても一から開発しなおしているんですよ。ThinkPadは長年、猫の肉球からヒントを得たゴム足を採用していました。非常に衝撃緩和性能に優れたパーツなので、当初は引き続き採用する方向で考えていたのですが、デザインチームから『猫の脚はもうやめてほしい』と注文が入り、新開発を余儀なくされました(笑)四角いゴムをくり抜いた中に金属製の板バネを組み込んだものから始まり、大体30個程度のサンプルを作成しました」

新たなゴム足。見た目はシンプルだが、驚きの秘密が詰まっている

—30個とはすごいですね。どんな道のりだったのでしょう。

前モデルまで採用していた“猫の脚”

「板バネを入れたものは優れた衝撃吸収性能を発揮したのですが、コストの都合から、金属は使えないということになりました。バネを使わずに衝撃を緩和するものはないかと考え、中に『エアポケット』という空気の層を入れることを思い付いたのです。軟質ゴム製の台形のものから始まり、ハーフパイプ上のもの、平らな土台と突起の組み合わせ、斜面状の土台と突起の組み合わせ……徐々に仕様が固まっていきました。斜面状の土台&突起という組み合わせが効率的に優れていることを発見してからも、何度もサンプル作成とテストを繰り返しています。中のくりぬき方を1段、2段、3段、と増やしてみたり、くりぬき方を大きくしてみたり。最終的にできたのが硬質ゴム製で、エアポケットの前後を大きくくりぬいたゴム足です。軟質ゴム製のものもよかったのですが、高いところから落下させるテストで思う成績にならず、硬質ゴムのものを採用しました。また、最も衝撃の伝わる位置をHDDの入った部分からずらす目的で、落とした際の“支点”にあたる部分も後ろ足だけ変えているんですよ」

板バネを組み込んだゴム足最終的に採用されたゴム足。前と後ろで構造が違う

—何気ないものと思っているゴム足にそんな開発過程があったとは恐れ入りました。『猫の脚』と比べて、性能的にはどうなりましたか?

「数値にして約5%程度衝撃緩和率が向上しました。限られた予算の中での開発ということで苦心しましたが、それが良い結果につながったのだと思います。エアポケットを設けたことで、机に置いた際の音も変わったんですよ。X230までは『コツン』、乱暴に置けば『ドン』と結構な音が鳴っていたのですが、X240は『トン』、『バタン』と、若干やわらかい音になりました。軽自動車のドアの開閉音と、外車のドアの開閉音くらい違うはずです。適当に置いても、『機嫌が悪いのか?』と勘違いされなくなりました(笑)また、今回はネジも特注品を使っているんですよ」

フローティング構造にし、遊びを持たせることで歪みからの回復力を改善した

ーネジの特注とは? 市販のネジにも沢山の種類があると思いますが。

「ThinkPadは“ねじり”への耐性も特徴のひとつで、大きくねじっても破損しにくく作られています。ただ、大きくねじると歪みが多少残ってしまい、机に置いた際に少しがたつくという欠点がありました。ユーザーの方からも時々指摘される部分だったため、CS13世代で何とかして改善したいと思っていました。歪みが残るというのは、筐体そのものの歪みというより、カバーの上下がずれた状態でネジが固まってしまうことに起因しています。なので、特に大きな力を加えなくても、長年パームレストの部分だけを持って持ち上げたりしていると、同様の症状が出てしまっていました。そこで新たに考えたのが“遊びを持たせたネジ”です。ネジ頭の下にスクリューが刻まれていない部分を作り、ボトムカバーが動いても元の位置に戻りやすくしたのです。ただ、遊びを持たせ過ぎても堅牢性に影響が出てしまうので、“弱くならない範囲で遊びを持たせる”ギリギリのバランスが重要でした。『この太さで、スクリュー部分の長さはこのくらいで……』とやっていくと、規格品ではだめだったのです。特注のネジを使った結果、ねじりからの回復性能は数値にして3倍向上しました。このあたりは、今回のもう1つのテーマ『ユーザーエクスペリエンスの向上』に位置づけられる部分ですね」

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