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GrabCADはメカ系エンジニアのGithubになれるか。

2013年11月11日 11時24分更新

文● 松下 康之/アスキークラウド

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 エストニアでメカ系エンジニアをしていた若者が二人で立ち上げたGrabCADは、メカ系エンジニアの仕事を根本から変えるかもしれない。

GrabCAD公式サイト:https://grabcad.com/

 エストニア出身でいまはボストン在住のGrabCADのCEO、Hardi Maybaum(ハルディ・メイバウム)氏は、アスキークラウドのインタビューに応え、GrabCADの現状とエンジニアが抱える問題点に如何にGrabCADが貢献しているのかを説明した。

GrabCADのCEO、Hardi Meybaum

GrabCADのCEO、Hardi Meybaum

 まず、GrabCADとはなにかを解説して貰おう。「GrabCADはエストニアで機械設計の仕事をしていた時にCADのデータを快適に交換出来るプラットフォームが無いことに気付いて作り始めたのがきっかけです。実際には学生の頃は機械の設計の勉強をしていたんですが、同時にコンピュータにも興味があってプログラミングも勉強していました。それがGrabCADに役に立ってます。GrabCADは機械設計のエンジニア達が作成したCADデータを交換するコミュニティとして機能します。またプロジェクトを管理するためのプラットフォームでもあります」と語る。

 GrabCADのサイトでは、様々なモデリングの結果が公開されており、世界中に存在するエンジニアが活発にデータやコメントなどをやりとりしているのが確認できる。一見すると様々なモデリングデータのショーケースに見えるが、ユーザーがコメントをしたり、質問をしたりコミュニティとしては活発に動いているようだ。また単にエンジニアリングのデータだけではなく完成した3DモデルのYouTube動画を同時に公開することも出来る。ファイルのバージョン管理ツールとしても利用可能だ。

 「GrabCADはこれまでのガラパゴスに閉ざされていた機械設計のエンジニアのアウトプットを公開し、共有することで無駄な設計作業を無くすことを実現しています。公開できるものはどんどん公開することでエンジニアとしての能力を対外的に評価して貰えるわけです。またメーカーにとってはこれまで社内や既存のパートナーだけに閉じられていた開発工程が世界中の90万人以上のエンジニアに公開されることによってよりよいアイデアを募ることが出来るようになります」と語る。実際にゼネラルエレクトリックではジェットエンジンのパーツの設計をGrabCADでチャレンジと言う名のコンテストとして公開したところ、半年で200を超える応募が有り、選ばれた設計データは社内で設計するよりも遥かに高い品質であったそうだ。これをきっかけにゼネラルエレクトリックでは社内で行っていた設計工程を見直す作業に入ってるとのこと。

GEのジェットエンジン部品設計におけるGrabCADを用いた事例ページ:http://www.ge.com/about-us/openinnovation

 またデトロイトの車のパーツメーカーではこれまで非常に手間がかかっていたデザインからプロトタイプ作りがGrabCADでプロジェクトを共有することで大幅に短縮されたと語る。つまり、エンジニアだけではなくデザイナーやマーケティングの担当者もPCやスマートフォンで閲覧できることで確認や修正が効率化されたのだ。

ブラウザーでGrabCADを利用

ブラウザーでGrabCADを利用

スマートフォンでモデリングデータを閲覧

スマートフォンでモデリングデータを閲覧

 メーカーの業務の一環としてCADを学んだエンジニアにとって業務で設計したデータを公開するのは著作権的にも業務倫理的にも問題が有りそうだ。「確かにその様な場合には、非公開にしてデータの公開範囲を設定することが出来ます。つまりGithubにおけるEnterprise的な扱いですね。現時点ではGrabCADは主に小さなメーカーや個人が利用しているのですが、今後は著名なメーカーでも利用が進むと思います」。

 Amazon AWSで構築されているGabCADだが、コミュニティ(Community)はデータ交換、共有の場所として無料で利用可能とし、個別のプロジェクトを管理出来るワークベンチ(Workbench)とソフトウェアベンダーがレンダリングの機能などを付加価値を提供する場としてのツールボックス(Toolbox)において有償とすることがマネタイズの方法論だ。

 この方法論自体とても理に適っていると思われる。なぜならショーケースとしてのコミュニティでエンジニアが作品を公開し、メーカーは様々なアイデアを集め、評価の高いエンジニアを見つけて設計プロジェクトを進めるというのは、ネットが発達した今なら世界中にリソースを見つけることが可能になり、エンジニアとメーカー双方に利益がある。しかも利用料は月額29ドルとこれまでのPLMソフトウェアのライセンス料と比べると格安だ。

 現時点では、主に北米とイギリス、ヨーロッパ各国、ブラジル、トルコなどで90万人以上が利用していると語る。日本ではまだ利用者が少なく、その理由を問うと「まだエンジニア自体がGrabCAD自体を知らないことと情報公開に対して若干後ろ向きなのかもしれない」と残念そうに語る。会社としてはエストニア、アメリカはボストンそれにイギリスに拠点を構え50名の社員が開発行っている。

 「日本での利用に関しては日本語化されていないことが欠点かもしれないが、エンジニア自身は英語の読み書きにはそれほど苦労していないはず。アジアにはこれからも積極的に活動を拡めて行きたい」と締めくくった。

 GrabCADは様々なアプリケーション、ファイル形式、交換フォーマットが存在する機械系デザインの世界に革命を起こそうとしているのだろうか。これまでの日本での製造業の仕事の仕方を振り返ると確かに革命的かもしれない。なにしろ社外の人間に情報を漏らすこと自体がやってはいけないコトだったのだから。

 しかし、これまで日本の得意分野と思われてきた製造業もコスト削減で製造拠点が海外に移転するなか、設計作業自体も徐々に海外拠点と分散化されていくのは時代の流れだろう。それを後ろ向きではなく前向きに捉え、集合知を利用するカタチで推し進めるGrabCAD、革新に乗り遅れないためにも日本のメーカーが本気で利用を検討するに値するサービスだろう。

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