『翠星のガルガンティア』村田和也監督インタビュー 後編
レドの相棒チェインバーはスマートフォンだった!?
2013年10月19日 12時00分更新
―― 国というものが非常に明確に確立したことで、自国以外の国は“自分たちを脅かすもの”と認定されてしまったのですね。
村田 そう思います。だから各国が自分たちの「所有権」や「占有権」をやっきになって主張した。
20世紀というのは、人類史上、初めて人類が地球上を埋め尽くした時代だと思うんですよね。地球上に残されたオセロゲームの最後の数コマを取り合った。取り方次第で勢力バランスが一気に変わるから、皆必死です。その結果、地球上すべての場所を誰かの所有物として設定していまいました。陸地であれ海であれ、人間が住める住めないに関わらず、です。「公海」という言葉がありますが、あれだって「この海は誰のものでもない」と言っているのではなくて、「人類のものだ」と宣言しているわけですから。
―― 国家間の奪い合いの象徴が、「土地」と「資源」だったということですね。各国が、自国の取り分を増やしていくために対立していったと。
村田 僕自身は「20世紀的対立」と呼んでいます。そのぎすぎすした状態というのは、振り返ってみれば、人類が前進するために通らなくてはいけなかったひとつの道だったのではないかと思うんです。人類という種が地球上に現れてから一度も経験したことのない事態だったわけですから。
でも、個人も集団も、AかBか、どちらかが優れていて、優れているほうが常に勝ち、負けた側には何も残らないみたいな二項対立みたいなことでは、この先、人が生きていく上で目指すところの「幸せ」にはたどり着けないのではないかなという気がしています。
だから、『ガルガンティア』では、人がこの先目指す幸せとは何だろうと考えたんですね。対立構造を持続し続けて、次から次へと戦争が起こったり、といったものではない人類のあり方があるのではないかと。
―― その答えのひとつが「船団」として描かれているのですね。
村田 船団は海を所有しない。海はみんなのものだと考えている。これは、自然界における生態系に近いものなんですね。
たとえばジャングルみたいに様々な生物がいるところに棲んでいる生き物は、常に戦っているわけではないですよね。もちろん同じなわばり上で獲物を狙わざるを得ないときは対立しますし、昆虫や小動物、猛獣などの間でお互いに食物連鎖で食べる、食べられるの関係はありますけれども、常に戦い続けているかというとそうではなく、あるひとつのバランスの中で共生している。
共に生きていて、そのバランスのなかで物質やエネルギーが循環して生態系が生まれていると。それは、自分の領域を限りなく最大化させるために周りを殲滅するという発想ではありません。自分が生きるのに必要な分だけ得られれば、あとは周りの者には自分たちがいいように生きてもらい、それが最終的に自分の糧にもなり得るという。
―― 船団の人々は、自分たちを襲う海賊にも必要以上にはやり返さず、レドが敵視するヒディアーズにそっくりな「クジライカ」にも、「手を出さなければ何もしないから」と、殲滅行動に入ろうとするレドを諫めていました。
村田 他者の生命が、結果として自分の生存に対してメリットになるという関係性。それが共存・共栄ということだと思うんです。船団の人たちも、相手にとって害のない存在でいることが、自らの生存にも繋がっているんですね。
―― 人間もまた、生態系の一部であると。
人類以外との共存を考えたのがヒディアーズ
―― 「共存」というテーマは、ヒディアーズという存在を登場させたこととも関連するのでしょうか。ヒディアーズは、人類銀河同盟と同じ「人類」という起源を持っていた。けれども、どちらかが殲滅するまで覇権争いをするという“不幸な二項対立”がずっと続いています。
村田 『ガルガンティア』の世界では、氷河期が近づいた時に、同じ人類という種が、自らが目指す生存戦略の違いによって派が分離していったんですね。「機械テクノロジー」に特化したのが人類銀河同盟。それに対して「バイオテクノロジー」に特化し、生命維持のために人体そのものを変化させたのがヒディアーズです。
―― なぜ、ヒディアーズのような存在を登場させたのでしょうか。
村田 いま我々が置かれている状況に関する極端な例を出そうと思ったんです。iPS細胞やES細胞といったバイオ技術の進化で、人間などの生き物の身体を人工的に培養、再生できるようになってきています。自分のクローンを人工的につくれる時代がそこまで来ている。
さらに言えば、人間の身体を使って「進化型人類」を開発する道が、開かれつつあるんですね。
生命の歴史、地球上の生物の歴史上、いまだかつてなかった、生物それ自体の意思によって新しい生物を生み出せるという状況が、来ているんです。
そうなると、自分が親から与えられた遺伝子のセットのまま生きていくのが正しいのか、生きていくうちに、もっと自分の身体を高機能化するという選択をする道もあるのではないか。あるいは、自分の子供に、自分と配偶者の遺伝子セット以上のものを与えてはいけないのかどうか、など、いろいろな問いが出てくるんですよ。
そうしたときに必ず、医療倫理的なものとか、それぞれの人間の価値観、人生観、そもそも人間とは何だとか、どう生きるのがいいんだ、というところに触れてきます。
だから、そういう意識を事前に触発するために『ガルガンティア』で、「人間が人体を改造する」ということについて極端な例を出しておきたいなと思ったんです。
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