『翠星のガルガンティア』村田和也監督インタビュー 前編
村田監督と虚淵玄氏が回した“利他的な歯車”
2013年10月12日 12時00分更新
虚淵玄氏との“高速キャッチボール”で企画を再構築
―― なるほど。『ガルガンティア』のアニメの制作現場でも、そうした「歯車」ができていたと感じることはありましたか。特に、シリーズ構成・原案の虚淵玄さんとはどのような作品作りをされていたのかが気になりました。虚淵さんは、ゲームというアニメとは異なるジャンルの出身で独自の作風を確立している印象があります。作風が異なる方と村田監督は、どのように歯車を回していったのでしょうか。
村田 この企画の経緯としては、1クール(13話)のオリジナルロボットアニメを作ろうということで虚淵さんが参加されることが決まり、その後に、僕が監督として呼ばれたんですね。
だから僕が来たときには企画もある程度固まってきていて、僕が受け取った企画書の中には「水の惑星」という舞台が出てきたんです。それで、水の惑星なら僕が前からやりたかった「船団」の設定が使えるかもしれないと思いまして。
それで、イメージスケッチを『ガルガンティア』のスターティングメンバーの皆さんにお見せしたら、面白いとおっしゃっていただいて、それで「水の惑星」の企画に「船団」のネタをどんと入れることになったんです。
僕から虚淵さんに、「作品舞台を船団にしたい」、その中で、「仕事ものを描きたい」とお話しして。しかもそれを「ロボットもの」作品に仕上げるという……。
―― そこまで異なるお題を3つも入れ込むのは相当難しそうですね。虚淵さんからはどのような答えが返ってきましたか。
村田 虚淵さんは、すごく柔軟で頭の回転の速い方なんですよ。「では、宇宙で戦っていた少年が、ロボットと一緒に地球に舞い降りてくる話にしましょう」と。僕の出したお題に合わせて、もうガラッと組み直して、『ガルガンティア』世界の基本プロットを、船団ベースの話に書き換えてくださったんです。わずか1週間ぐらいというすごいスピードで。
―― 虚淵さんが、監督のお題に合わせて書き換えてくださったと。意気投合という感じでしょうか。お互いに食い違うところはなかったのですか。
村田 食い違うところは特になかったですね。お互いに、出したアイデアを吸収しつつ、次へ次へと転がしていく感じでした。かなりダイナミックに進んで行きましたよ。虚淵さんから出していただいた面白いアイデアに、僕がビジュアル的なアイデアを重ねて、また虚淵さんに戻したりして。
意気投合とはちょっと違うのですが、お互いに出すアイデアを面白がって、それにまた重ねてどんどん返し合うという。そのキャッチボールの速度が速くて楽しかったですね。
―― まさに、お互いに歯車を回し合っている感じですね。
村田 そもそもヒディアーズという謎の生命体を出そうという案を出されたのは虚淵さんなんですよ。
それで、僕のほうから「それはどんな感じのビジュアルのイメージですか」と聞いてみたんですね。そうしたら「アンモナイトみたいなもの」ということだったので、僕が絵にしてみて、ヒディアーズが元人類だったという設定もあったので、では、元人類だった形とはどんなものだろうと僕が考えてスケッチを描いて、最終的にアンモナイトの殻を外して人の形を少し入れたりして、たどり着いたのがあのイカのような生き物でした。
―― 持っている世界観が違う虚淵さんとのやりとりが、なぜそこまでうまくいったでしょう。
村田 「この作品を面白くするためにはどうすれば良いのか?」ということを、虚淵さんとも、もちろん他のスタッフとも共有できていたからだと思います。
アニメ作りの現場という組織の目的が「面白い作品を作る」であり、より面白くするためには、自分のアイデアに固執するのではなく、相手の案が上に重なっていくことをお互いに喜ぶ。
そんな、“利他的な歯車”がうまく回っていたんじゃないかと思います。
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