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BYODで成功するには、BYODから始めるな!

2013年08月27日 07時00分更新

文● 寺田祐子(Terada Yuko)/アスキークラウド編集部

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 近年、メディアで「BYOD」という言葉がよく聞かれるようになった。BYODとは、「Bring Your Own Device」の略で、個人的に購入したノートパソコンやスマートフォン、タブレットといったデバイスを業務に利用することを指す。野村総合研究所は2017年度以降に普及期を迎えると予測しており、今後、利用が急速に進むと見られる。

スマートフォン

Some rights reserved by Michigan Municipal League (MML)

 私物のスマホやタブレットを業務に利用している人は少なくない。しかし、企業側がきちんと管理しているのかというとグレーな部分も多い。ガートナーによると、2012年の調査で国内企業の約32%が業務利用を「検討中」、もしくは「不明」と回答。また約25%が「許可している」と答えたが、その対策は企業ごとに温度差があり、例えば、社内に無線LAN環境がないと油断していても、社内の有線LANに無線アクセスポイントを勝手に接続したりすることで、スマートフォンを社内システムに繋げることができるようになるなどの注意が必要だ。

 私的デバイスの業務利用は、従業員レベルでこそ進んではいるものの、企業側の管理体制が不十分なのだ。

 ガートナー ジャパンの池田武史リサーチディレクターは、私的デバイスの業務利用を企業側が黙認、もしくは放置することで思わぬところで情報が漏えいしてしまうことを危惧する。「業務で使用するさまざまな情報、特に、企業利益を損なうクリティカルな情報が、善意悪意の区別なく外部に流出してしまうことが怖い。従業員の立場で言えば、業務効率のためと思って私的デバイスを使っているのかもしれないが、情報を共有するしかけが随所に施されていることの多いコンシューマー向けのファイル共有サービスやSNSなどでは、うっかりいろんなところに情報が漏れてしまう」と指摘。従業員がよかれと考えていたにもかかわらず、結果的に漏えいの責任を追求されてしまうこともある。

 海外に比べて、日本はBYODの普及が進んでいない。「特に欧米にくらべ、日本は若干慎重な印象を受ける。欧米の場合はBYODを従業員の権利として求めている。欧米は日本と雇用形態が違い、仕事環境で会社を選ぶということも影響しているかもしれない。日本で普及していくかは未知数のところがある」(同)。

池田武史

ガートナー ジャパンの池田武史リサーチディレクター

 私的デバイスを使うか、デバイスを会社が負担するかでも議論が分かれるところだ。しかし、池田氏は「BYODの前に、デバイスを企業でどのように活用するのかという論議が不十分」だとし、モバイルデバイスを使って企業利益をいかに高めるか、戦略を先に練っておくことが重要だと話す。「例えば、タブレットを営業に使えば紙のファイルを持ち歩かずに済んだり、タイムリーに情報を引き出せたりする。あるいは緊急時の安否確認として利用することもできる」(同)。

 同社の調査によると、モバイルでは電子メールやスケジュールの確認が多く、タブレットは顧客向けのプレゼンに使うことが多いという。「このように企業ごとのデバイスの利用状況を考慮した上で、ルールをカスタマイズしていくことがまずは第一歩」だと池田氏は強調する。

 しばしばBYOD導入のメリットとしてコスト削減が挙げられるが、それは「コストのすり替え」にすぎないケースがあると池田氏。通信料金などを従業員負担にすることで「コスト削減だ」という場合があるからだ。システム改修やルールの策定、管理やセキュリティ対策などの初期投資は当然かかる。

 ではなぜ、BYODが求められるのだろう。池田氏は「スマートフォンやタブレットといった新しいデバイスはこれまでのPCとは異なる利用シーンを持つデバイスであり、これらのデバイスはビジネスへもよい影響を及ぼすことになる。しかしながらコンシューマーでの利用を主な目的としたこれらのデバイスをそのままビジネスに持ち込むには、使い勝手のみならず管理やセキュリティーの側面でも成熟度がまだ充分と言えない。だからこそ、議論をしっかりして、用途や利用者を定めて、そのシーンに沿ったルールをきちんと決めることが肝要だ。タブレット・スマホの利用シーンが多様化していく中、どうしても守らなければならない情報とは何かを考える。その上で、スマホやタブレットを業務に利用する際、必要な情報とは何かを検討していかなければならない。もちろん最初から全社員向けの完全なルールは作れないので、対象を限定しながら少しずつ広げていくのが実際の進め方になる」と話す。急がば回れ。こうした戦略やルール策定の中で、手段としてもBYODも必然的に検討しなければならなくなるのだ。

 結局は「多様性を受け入れる環境づくり」をしっかりやっていくことに尽きると池田氏。「単なるテクノロジーとしてではなく、使う場所や従業員のレベルを踏まえ、システムや管理ツールを導入してほしい。もちろん初期の手間はかかるが、そうすることで最終的にさまざまな無駄を省ける」(同)。

 デバイスをうまく活用すれば、ビジネスチャンスが広がる。また、従業員側からみても、会社支給のスマホと私用のスマホを2台持つのは不便。1つでまとまるならその方が利便性は高い。企業としても従業員としても満足のいく結果にするためにも、BYODを導入する前にまずは戦略を決めて、できるところからスタートしてみることがBYOD成功の秘訣だ。


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