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既存農業のモダナイゼーションからイノベーションへ

クラウドで農業は変わるか?富士通「Akisai農場」の挑戦

2013年08月06日 07時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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7月18日、富士通は食・農クラウド「Akisai(アキサイ)」を活用した沼津工場の自社農場を報道陣に披露した。農業分野へのICT活用を支援すべく、クラウドを積極的に活用した同社の取り組みを見ていこう。

「にんじんやだいこんの原価がわからなかった」

 Akisaiは食料・農業分野でのICT活用を実現するクラウドサービスで、ちょうど1年前に富士通から発表されたもの。「豊かな食の未来へICTで貢献」をコンセプトとし、生産現場でのICT活用のみならず、流通・地域・消費者のバリューチェーンを結ぶのを目的とする。

食・農クラウドAkisaiの商品体系

 見学会に先だって登壇した富士通 統合商品戦略本部長 兼 ソーシャルクラウドサービス統括部長の阪井洋之氏は、Akisai登場の背景として、農業の国内生産額、農業・食料の国内生産額ともにピーク時から大きく落ちている現状を説明。また、日本の農業自体にも収益力の低下や国際競争力の低下、現場の高齢化、品質管理、シルバー市場への対応などさまざまな課題が横たわっていると指摘した。

富士通 統合商品戦略本部長 兼 ソーシャルクラウドサービス統括部長 阪井洋之氏

 こうした課題に対して阪井氏は、企業的な農業経営を導入するほか、食品加工や卸、小売り、外食産業などとのバリューチェーンを構築する必要があると主張。「儲かる農業を作り、国際競争力をつけなければならない。また、若返りをはかる必要がある」(阪井氏)と指摘した。また、アベノミクスにおける成長戦略の中でも、農林水産業を成長産業にする施策が練られるほか、ITを活用した農業や周辺産業の高度化・知識産業化が進められていくと説明した。

 一方、富士通としては、既存ICTのモダナイゼーションとともに、今までICTが活用されていなかった分野の拡大を狙っており、そのうちの1つが食・農業分野にあたるという。2008年10月からは全国10カ所の農業法人と“泥にまみれた現場検証”を進め、食・農業分野でICTがどのように活用できるかを試行錯誤してきた。「(ICT未導入の農業分野では)生産者から利用方法が出てくるわけではないので、試作品を作り、評価と改善を重ねるというアジャイル的な作り方をしてきた」(阪井氏)。

泥にまみれた現場検証

 その結果、農業法人においては「経営・生産・品質などの見える化」が収益拡大の大きな鍵になることを見出したという。これに関しては作物ごとの利益率を元にした作付けポートフォリオ作成のほか、圃場(ほじょう)ごとの品質・生産性の比較、実績の見える化、作業のマニュアル化などが課題になった。「今まで、にんじんやだいこんのそれぞれの原価がわからなかった。原価や利益率がわかることで、戦略が立てられることが重要」(阪井氏)。一方、食品加工・卸・小売り・外食などの分野では、調達先の「4定(定時・定量・定品質・定価格)管理」が売り上げと収益が重要なファクターで、計画的な生産・調達や品質保証などをICTで実現する必要があった。

実証実験を踏まえてわかったこと

 こうした見える化や新しいバリューチェーンの開拓を実現するための1つの形として生まれたのが、食・農クラウドAkisaiになる。具体的には、農業に企業的な経営を持ち込み、組織的なマネジメントをカバーする“イノベーション支援サービス”を提供。対象の農業分野も、土地利用型のほか、施設園芸、畜産まで幅広くカバーするという。

(次ページ、農業先進国オランダに追いつけ、追い越せ!)


 

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