このページの本文へ

まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第38回

サンジゲンハリウッド始動&松浦社長インタビュー

アニメを3Dで作る是非―日本のアニメ表現にこだわることにこそ未来あり

2013年08月06日 11時00分更新

文● まつもとあつし

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

セルルックの3Dアニメに特化した人材を求めている

 パネルディスカッション後、サンジゲン松浦氏に単独インタビューを行なった。

―― 今回デジハリと組んでCGアニメーター育成コースを作った理由は?

松浦 作品を見ると華やかな印象を受けるアニメ業界ですが、現場の人たちの生活はやはり厳しいままです。もの作りに高い意識を持って入って来てくれる人は多いものの、それでも人材不足が続いています。現在、サンジゲンは約90名、グループ全体では200名あまりの陣容ですが、それでも全然人手が足りません。

 この状況を、自分なりに解決するにはどうすればいいのか、という問題意識がまず背景にありました。そこで専門学校をはじめ様々な教育機関に足を運んで、セミナーなどを続けてきました。本気で取り組んでくれる場所があれば全面的に協力するという姿勢で。

講座では『009 RE:CYBORG』『ブラック★ロックシューター』など、サンジゲンが制作したアニメ作品の実データを使って講義する。また、現役スタッフが直接教鞭を執ることも特筆すべき点だ

 一方、セミナーを開催した学校の卒業生がポートフォリオ(自身の作品集)を持って入社試験を受けてくれることも多いのですが、僕たちが手がけているのはアニメにもかかわらずリアルなCGを持ってきたりとか、『ホントにサンジゲンで作品を作りたいと思っているのか?』と疑問に感じることもあるわけです。

 本人の指向、あるいは迷いがそこにあるとも言えるでしょう。もう1つには、学校側もTVコマーシャルなど“広くCGを使う仕事”を対象に教えている間は、やはり成果物もそうしたリアル寄りのCGになってしまうという事情があります。

 やむを得ないとわかってはいますが、こちらから見ると間口が広過ぎるんです。やはりアニメ業界を目指すならばアニメに特化したカリキュラムで望んでほしいと思っていたところ、デジハリさんは我々の考えを全面的に支持してくれました。今回組んだ理由もそこにあります」

―― カリキュラムを絞り込むことで、即戦力になれる?

松浦 最低限必要なツールの使い方は教えられますが、その先にある、見た人の心を動かすようなもの作りは、実際に現場に入らなければなかなか伝えられるものではありません。したがって、本コースでは前半がデジハリさんでの講義、後半はインターンを経て、採用プロセスへという流れで構成しています」

―― 3D化、デジタル化によって参加のハードルは下がるぶん、他の分野と同じく、上手い人のところに作業が集中し、忙殺されてしまう=労働環境の改善に繋がらないという状況が出来上がってしまう懸念は。

松浦 雇用形態としては、レンダリング用の膨大なサーバーを用意していますし、アニメーターの大半が個人事業主の手描きアニメと異なり、1ヵ所で固定的に雇用する/されるほうが合理的ですので、その意味での雇用の安定は図られています。

 ただ、パソコンとソフトがあればすべての作業が完結することで、別のリスクが生まれてしまうのは事実ですので、僕たちはいくつかの施策によって、意識して変えていこうとしています。

 1つはアニメーターの仕事の範囲を敢えて制限する取り組みです。現在は1人ですべての工程をこなすことも可能ですから、何でもできる“スーパーアニメーター”と呼ばれる存在が生まれています。

 しかし、皆が皆それを目指すことはできませんし、また忙しい人に仕事が集中してしまっては、環境改善にも繋がらないどころか、経営リスクも高まってしまいます。“何でもできる凄い人のところで仕事が滞っている”ということにもなりかねませんから。

 そこでサンジゲンでは2~3年かけて、敢えてできる作業を絞り込む環境を用意しようとしています。これはソフトウェアのチューニングを含めた施策です。

 例えば、アニメーターは動きをつけるところに特化してもらう。同時に、使用ソフトも動きを付ける以外のことはできない仕様に変えるわけです。そのなかで競争が生まれるし、きちんとその生産性や成果物を評価して経済的にも報いることができる――そういった体制を基本にして、それでも凄いスーパーアニメーターには全工程を手がけられる環境も残す。

 きちんと線引きをして、プロジェクト管理ができるようになる、という体制を目指しています」

「一握りのスーパーアニメーターに作業が集中して、結果的にプロジェクトが滞ってしまっては意味がありません」

―― 世間的には「フル3Dアニメ」に対する拒絶反応のようなものもありますが。

松浦 まだまだありますね。“アニメの中にCGが取り込まれる”前に、“CGという技術がこれからの映像表現で重要になる”という状況が先に生まれてしまった。でも本来は“アニメを創る手法の1つとしてCGを使っているだけ”という捉え方が僕は適切だと考えています。鉛筆の代わりにマウスを持っているだけなんです。

 視聴者の方々には“手描きかCGか”を意識せず、“日本のアニメを見ている”という感覚を持ってもらいたいし、早くそうなるように僕たちも努力しなければなりません。僕はCGという手法だけではお金にならないと思っていて、そこにストーリーが加わりコンテンツになることで初めてビジネスが成立するのだと思います。

 確かにサンジゲンはCGに強みがある会社ですが、目的はアニメを作ることに置いています。これから技術を向上し、人も増やして、アニメ作品を成功させることで、そういったレベルに早く至りたいですね。今はまだその入り口に立っているに過ぎません」

―― そういう意味では全編を3Dで、という点にこだわる?

松浦 業界全体という大きな意味においては、こだわりません。手描きの良さがあり、CGを部分的に取り入れるハイブリッドな手法もあってしかるべきです。ただし、サンジゲンという会社の存在価値を高めるためには、全編3Dという挑戦は続けていきたいと思っています」

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ