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動画配信を容易にする元祖「ネットの下の力持ち」

企業がメディアカンパニーになるとき、アカマイが果たす役割

2013年07月26日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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CDN(Contents Delivery Network)の始祖とも呼べるアカマイ・テクノロジーズ(以下、アカマイ)が創業当時から取り組んでいるのが、大容量化を続けるビデオトラフィックの効率的な配信だ。アカマイ メディア担当シニア・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのビル・ホイートン氏に最新動向について話を聞いた。

ビデオのトラフィックが全体の8割を占める時代へ

 アカマイは、「Akamai Intelligent Platform」と呼ばれるコンテンツ配信網をベースにユーザーやデバイスごとに最適なメディア伝送をエンドツーエンドで実現するいわゆるCDN事業者。CDNというビジネスを作り上げたいわゆるオリジネーターであり、ビデオやゲーム、ソフトウェア、SNSなどの配信を最適化し、高速・低遅延で、セキュアなコンテンツのダウンロードを可能にする。

アカマイ メディア担当シニア・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー ビル・ホイートン氏

 現在、2100以上のロケーションにある13万2000台のサーバーで構築されているAkamai Intelligent Platformは、1日あたりなんと2兆にもおよぶリクエストを受け、秒あたり6テラビットの配信を行なっているという。これは全Webトラフィックの15~30%を占めると言われており、まさにインターネットの基幹インフラとして動作しているのがわかる。ホイートン氏は、「ネットワーク事業者とパートナーシップを結び、エンドユーザーに近い場所でサービスを提供できるようにしている。これは15年変わっていない」と語る。このプラットフォームをベースに、あらゆるデバイスから、快適にコンテンツにリーチできるようにするのが、同社の戦略だ。

 Akamai Intelligent Platform上では、Webコンテンツ配信とメディア事業者向け配信のサービスを中心に、エンタープライズ、セキュリティ、ネットワークなどの付加価値ソリューションが展開されている。そして、同社が特に力を入れているのが、メディア事業者向け配信向けの「SOLA Media Solutions」(以下、SOLA)である。クラウドベースのビデオ配信ソリューションであるSOLAを用いることで、エンドユーザーはあらゆるデバイスで高品質なビデオ再生を楽しむことができる。また、メディア事業者はコンテンツを適切に配信・保護でき、マネタイズに専念できるという。

アカマイの配信サービス

 こうしたメディア事業者向け配信に注力する背景は、グローバルでのビデオトラフィックの伸びが挙げられる。2011年にはインターネットトラフィックの半分以上がビデオになり、2016年には86%がビデオで占められるようになるという。また、デバイスや視聴スタイルの多様化により、さまざまなビットレートやフォーマットに対応する必要があるほか、課金のための統計やコスト管理、セキュリティにも配慮する必要がある。ホイートン氏は、「今後は4Kのコンテンツも増えてくるため、より高品質な配信を可能にしなければならない。これに対して、私たちのプラットフォームは、こうした需要に耐えうるスケーラビリティを持っている。顧客の要望を15年に渡って聞き続けてきた」と語る。実際に、昨年行なわれたロンドンオリンピックではSOLAを用いており、各国の放送局の要求を満たしつつ、大量トラフィックに対してスケールさせてきた結果だという。

メディア事業者が必要なすべてをクラウドで

 SOLAはいくつかのコンポーネントから構成されている。まず基盤となる「SOLA Sphere」は自社開発のストレージプラットフォームで、コンテンツを地理的に分散配置。ネットワーク的に最適なパフォーマンスでコンテンツをユーザーに配信する。「現在、オブジェクトストアベースの新しいストレージに移行中で、今秋にラウンチする」(ホイートン氏)とのことだ。

 また、メディアサービスを手がける「SOLA Vision」では、おもにコンテンツ配信に際してメディア事業者が手がけるべき、認証やエンコード、セキュリティ、DRM処理などを肩代わりするものになる。ID管理やコンテンツの認証を行なう「Connect」、ポリシーに従ったコンテンツの保護やターゲッティングを行なう「Protect」、デバイスに合わせたコンテンツのパッケージングを実現する「Adapt」などのサービスを持っており、適切なユーザーに対して許可されたコンテンツを最適な形で提供する。また、1つのIDで事業者をまたいだり、ユーザーに合わせた広告を挿入することまで可能だ。

 直近ではAdaptと呼ばれるトランスコーディング機能を追加した。ソースのビデオを登録すると、クラウド上でトランスコーディングが施した後、ストリーミングコンテンツとしてパッケージングしてくれる。パッケージ化されたコンテンツはデバイスに最適化されたとしてビデオフォーマットで再生できるほか、ストリーミングもサポートする。ファイルを細分化して、クラウド上で並列的にトランスコーディングの処理を行なうため、「たとえばスポーツやニュースなどのリアルタイム性を重視するコンテンツの配信に役立つ」(ホイートン氏)という。ファイルサイズに依存せず、分単位で課金されるというのもユニークな特徴だ。

アカマイ側でのトランスコーディング

 その他、SOLAではメディア事業者がオーディエンスの体験や品質を測定するためのコントロールパネルも用意している。「ユーザーの挙動をリアルタイムで捉え、2秒以内での遅延とリバッファリングできるようにする」(ホイートン氏)とのことで、ユーザーの視聴体験を高めることができる。

ビデオ配信は一般企業にも関わってくる

 このようにSOLAでは、メディア配信事業者が本来手がけるべき面倒な作業をまとめてやってくれる。こうしたサービスが注目される理由としては、前述したとおり、ビデオのトラフィックが爆発的に増えたほか、配信環境が多様化したという点が挙げられる。

 ホイートン氏は「今から15年前、インターネットではRealPlayerやWindows Media、Flashなど特定のクライアント/サーバーでの配信パターンしかなかった。しかし、現在ではさまざまなデバイスやフォーマットがあり、OSも多様化している。デリバリに関しても、セキュリティに関しても複雑になりすぎている」と指摘。こうした中、高速でセキュアなメディア配信環境をイチから構築するのは厳しい。「オンサイトでビデオをトランスコードし、自分たちでサービスをスケールさせようとしているユーザーも多い。しかし、私たちはストレージ、トランスコーディング、パッケージング、配信まで環境をフルパッケージを持っている」とアピールする。

 また興味深いのは、今後はメディア配信事業者だけでなく、エンタープライズもSOLAの顧客になりうるという指摘だ。ホイートン氏は「つい先日も、有名なゲームコンソールの発表会をグローバルで配信した。研修やパートナーイベントをビデオでやるところは増えているし、教育でも導入されるだろう。すべての企業はビデオの資産を持っており、エンゲージメントのためにこれを外に公開しようとするなら、ある意味メディアカンパニーとも言える。われわれはこうした企業にビデオの配信を簡単に実現できる環境を用意している」と語る。

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