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テレビ番組の海外販売の鍵はクラウド化だ

2013年07月31日 16時05分更新

文● 伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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 YouTubeやニコニコ動画のような投稿サイトが流行る一方、「IPテレビ」の日本での普及は遅れている。IPテレビは、インターネット・プロトコルを利用した動画配信サービスで、セットトップボックス(STB)をテレビにつなげて視聴するもの。日本では「ひかりTV」が有名だ。
 そのIPテレビの標準化技術「H.762(LIME)」を普及させるために世界中を渡り歩いている日本人がいる。電気通信の国際標準を策定する国連組織「ITU」に所属する川森雅仁氏だ。日本のIPテレビの未来について川森氏に話を聞いた。

海外のIT展示会でIPテレビのデモとプレゼンをする川森氏

――ITUはどういった組織でしょうか。

 通信や放送に関する世界標準規格を決めている国連の機関です。国際電話の国番号や衛星通信に用いる電波帯域はITUで決めたものです。IPテレビ関連のITU標準規格には、「H.762(LIME)」や「H.264」と呼ばれているものがあります。

 インターネット上では、グーグルやアップルといった大企業が関与したデファクト標準規格が広まることもありますが、新興国は、規格の利用に大きなコストが掛からないので、まず国連の標準規格であるITUを確認するんです。

――IPテレビの実例を教えてください。

 例えば、今年1月には北海道テレビの番組を北海道と東京のサーバー上にアップして、スイスのジュネーブからアクセスして視聴するというデモンストレーションを実施しました。コンテンツはクラウド上に置いてあるので、端末はスマートフォン(スマホ)やタブレットでも大丈夫です。

 H.762は、HTML5ベースの技術なのでインターネットがつながってコンテンツを探すことができればどこでも見られます。我々は、こういったデモやテストサービスをシンガポールや上海、マニラ、ベナンなどで実施して、H.762を広めてきました。

――IPテレビを見るにはSTBは必要ですか?

 IPテレビ非対応のテレビにはもちろん必要です。しかし、スマホやタブレットで直接視聴するのが、簡単で楽だから理想的ですね。コンテンツ側がアプリを作って、アイコンをタップすれば視聴できる番組が全て並んでいる――こういったサービスが実現できるでしょう。

――日本のテレビ局は番組をDVD化して利益を上げています。IPテレビから遠ざかっているような気がします。

 日本にはDVDマーケットが存在して買ってくれる人がいますが、韓国の場合、すぐにリッピングされて違法アップロードされてしまうのでDVDマーケットは存在しません。だからこそ、韓国はIPテレビの普及が進んでいるという見方もできます。テレビ局は、日本国内のマーケットだけを考えないで国ごとにビジネスモデルを変えて考えないといけない。

 さらに今後は、コンテンツ処理を考えた番組作りを進めないといけないと思います。テレビ局はインターネットでビデオオンデマンドのサービスは始めているんですが、権利処理がクリアできていないのか、いいコンテンツが出せてないんですね。

――「おしん」や「風雲! たけし城」のように番組単体を海外に売っている例もありますが。

 在京キー局はコンテンツの単品売買でビジネスになるから大丈夫ですが、ローカル局は知名度がないのでコンテンツを売るのは難しい。北海道テレビは、東南アジアの中華系の人に向けて北海道のプロモーション番組を作りました。

 しかし、積極的に海外展開をしないと、そもそもどんなコンテンツを持っているのかも知ってもらえない。北海道に来てもらって番組を見せるわけにはいかないので、クラウドにコンテンツを並べてIPアドレスとパスワードをメールで送って見てもらえばいい。そうすれば、東南アジアの事業者が北海道テレビの番組を自国で見て検討できるわけです。

――WOWOWやスカパー!はオンデマンド放送を始めましたが、衛星放送との関係は。

 場所によっては衛星も必要ですから、事業者の考え方次第ですね。日本は技術が優れているのに、サービスが追いついていない。視聴者にしてみれば、地上波の番組を見ているのか、衛星放送なのか、IPテレビなのか、は関係ないのに、技術を分けて考えてしまうんです。

 リビングで大画面テレビを見るという、今までの視聴者の視聴スタイルの前提自体を変えないといけない。IPテレビはインターネットがつながっていればスマホでもタブレットでも見られる。わざわざリビングに行かなくてもベッドの上で番組が視聴できます。視聴スタイルの前提を変えてサービスを浸透させる方が、地上波の番組なのかIPテレビの番組なのかを説明するよりも効果的だと思います。

――広告業界に動きなどはありますか?

 広告代理店は将来、IPテレビが必ず普及すると思っているはずです。今はテレビの視聴率が落ちてきて、テレビを見る人が減っている。今までと違った視聴の仕方をしていることに対応するかたちで、テレビ以外にもスマホ、タブレットを含めたマルチデバイスを串刺しにするような共通IDを用意すればいい。

 共通IDで性別や年齢、視聴している時間帯やデバイス、履歴まで取得できれば、広告を効果的かつ戦略的に打ち出せる。最後はスポンサーがどう判断するかによりますが、広告価値がより高まると思います。

――IPテレビに熱心な国はありますか。

 たくさんありますが、ブラジルは特に熱心ですね。グローボという放送局は標準の新技術を取り込んだ動画配信サービスをすでに始めています。私がブラジルへ行ったときも標準準拠のスマホで現地放送局のテレビ番組を視聴できました。2014年のサッカーのワールドカップのために始めたようなものなので来年は、スマホやタブレットでサッカー観戦するブラジルファンがたくさん出てくるでしょう。




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