FPUはCPUコアに統合され
プロセッサーアップグレード品に置き換わる
次にインテルが投入した「Intel 80487SX」というFPUは、実は80486DXそのものである。インテルはこの当時、80486DXに内蔵されたFPUを無効化することで低価格化した製品を80486SXとして投入したが、この80486SX搭載製品にアップグレードパスとして「FPUコプロセッサーを提供する」という謳い文句で投入されたのが80487SXである。
80487SXを差した場合、元々差さっていた80486SXは動かなくなり、FPUの処理を含むすべてのCPU処理を80487SXがまかなうことになる。したがって、厳密にはコプロセッサーというよりはプロセッサーアップグレード品だ。
「Intel 80487SX」に続いて、1992年には「RapidCAD」という製品を投入するが、これは連載59回で触れた、386互換の486プロセッサーであり、i80387DXのソケットにはダミーが差さるという、これまたコプロセッサーというよりはプロセッサーアップグレード品というべきものであった。
インテル以外のコプロセッサーたち
インテル以外のものとしては、まずはNexGenの「Nx587」がある。これはNx586の回路規模が大きくなりすぎてしまったため、FPUを外付けにしたことで生まれた製品だが、元々Nx586そのものの命令セットはPentium互換であってもパッケージは独自であり、Nx587もやはり独自のパッケージであった。
筆者もNx586搭載マザーボードを使っていた経験があるのだが、当時日本で流通していたものはほとんどが米Alaris社のNexGen586/90MHz搭載の製品で、マザーボード上にNx587用のソケットがないものだった。そもそもNx587のソケットを搭載したマザーボードを見たことがまったくないのだが、多少なりとも流通していたのかどうか、非常に謎である。
NexGenは後継のNx686も、FPUは外付け(Nx687)とする予定だったが、AMDの買収後にK6という形でワンチップ化されたのは御存知の通り。ただしこのK6に搭載されたFPUはダイサイズ削減のため、元々のパイプライン化された高速なNx687ではなく、もっと性能の低いものが利用された。
これをもっと極端にしたのが、Weitekである。WeitekはGPU黒歴史の方(連載158回)で一度取り上げているが、元々はMotorolaのMC68020向けのFPUとして投入した「Weitek 1164/1165」というIEEE 754互換のFPUを製造しており、これを80286向けとしたのが「Weitek 1167」である。
この「Weitek 1167」の性能を上げたのが続く「Weitel 2167」で、以後80386向けに「Weitek 3167」、80486向けに「Weitek 4167」がそれぞれリリースされた。これらの製品は、そもそもIntel x87シリーズとパッケージ的にもソフトウェア的にも互換性を持っておらず、なのでインテルとしては訴えようがない製品であった。
その一方でハードウェア及びソフトウェアの互換性をどう取るかという問題があった。このため、例えば「Weitek 3167」の場合、データシートに以下のようなモジュールが示されていた。
つまり「Intel 80386」と「Weitek 3167」を両方乗せたドーターボードを作り、これを本来の80386用のソケットに装着するという力技である。ただ「Weitek 4167」の世代では信号数も増えたこともあってか、マザーボード側に専用ソケットを用意してもらう方式に改めたようだ。ところが専用ソケットを搭載する製品が少なかったこともあって、商業的にはあまり成功したとは言えなかった。
ということで今週はFPUを中心に様々なコプロセッサーを説明したが、次回はその他の製品を色々取り上げたい。
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