「Dailymotion」も買収候補だった
先の状況を大きく変えると目されていたのが人気動画サービス「Dailymotion」の買収提案で、その買収金額は3億ドル(307億円)程度が見込まれていたという。現時点で同買収が破談となった理由は明確ではないものの、一連のレポートから判断する限り、フランス政府が買収阻止に動いたという説が有力だ。
Yahoo!の提案は、France Telecomの持つDailymotion株の75%を取得し、傘下に収めるというものだったが、数少ない成功したフランスのインターネット企業であるDailymotionをそのまま米国企業へと譲り渡すのを政府は良しとせず、あくまでYahoo!とDailymotionが同等の関係にあることにこだわったようだ。
もともとDailymotionは独立系スタートアップとして誕生したものの、2011年からFrance Telecomが同社株を買い進め、現在は100%と子会社としている。国営企業だったFrance Telecomは現在も大株主のひとつがフランス政府であり、Dailymotionもその影響下にあることは想像に難くない。
だが、Mayer氏は動画サービスが重要であるという姿勢を崩しておらず、条件的にはより厳しい「Hulu」買収の話が出てきたというわけだ。
Huluが他の動画サービスと大きく違うのは、広告収益を主体とした無料サービスというよりも、有料サブスクリプションを前提としたビジネスモデルを打ち立てている点にある。Huluは広告を使った無料TVプログラム配信サービスとしてスタートしたものだが、現在ではHulu Plusのような有料コンテンツ契約ユーザー数が300万を突破しており、ビジネス的にこちらの比重が高まりつつある。とはいえ、まだまだ動画サイト単体としてのビジネスは厳しい状況で、親会社News Corp.をはじめ、DisneyやComcastなど主要な出資者らは売上増加と相反する形で、(設備投資などで増え続ける)その負債に頭を悩ませているという。
Yahoo!としては、ライバルのGoogleがYouTubeという人気サイトを抱えているのに対し、特にこれといった対策を持っておらず、何らかの形でこれらサービスを取得したいと考えているのだろう。
HuluやDailymotionとはサイトの性格が異なるものの、「すでにある人気サービスを取り込んで成長戦略に組み込む」という点で、Tumblrは延長線上にあるといえるかもしれない。特に前2者の買収成立が難しいなか、Mayer氏にとっては初の(成立の可能性がある)大型買収案件として注目を集めるだろう。
なぜ「Tumblr」なのか?
動画や画像アップロードに制約があり、他の関連サービスとの連携を前提としているTwitterに対し、Tumblrの利用スタイルはよりシンプルだ。さらにFacebook的なコメント機能や投稿拡散も容易で、比較的両者の“いいとこどり”という感覚がある。また面倒な設定が必要なブログエンジンに比べ、簡単に「自分のサイト」的なものを構築できる。「SNS的な機能を利用できる簡易ブログ」といえるかもしれない。
Yahoo!によるTumblr買収交渉について報じたATDによれば、J.P. MorganのGlobal Technology Conferenceで講演したYahoo! CFOのKen Goldman氏は壇上で、すでにインターネット企業としては老舗になりつつあるYahoo!にとって、18〜24歳のユーザー層をより取り込む必要があり、「再びクールな企業へと返り咲く」必要性を強調していたという。
特にここ数年はこれらユーザー層からの乖離が激しく、状況を打開するための何らかの施策が必要だと指摘している。これを実現するアイデアのひとつがTumblr買収だというのだ。
Tumblrがこの条件に当てはまるかどうかという点だが、Digidayによれば、Tumblr訪問者の約半数は18〜34歳(ComScore調べ)であり、ある程度条件を満たしているといえるだろう。
もっとも、30〜40歳代が最大のボリューム層という点を除けば、実際にはTwitterやFacebookも分布的には大差がなく、あくまで既存ユーザーやサイト訪問者をYahoo!のサービスと結びつけ、買収による話題の盛り上げや一般への印象を強める狙いのほうが大きいのではないかと筆者は考える。
サービス利用者や知名度の割にはこれらSNSよりも買収が容易というのもポイントで、公開企業のFacebookを除けば、Twitterの現在の市場価値は100億ドル程度といわれており、現在300億ドル程度の時価総額のYahoo!には重荷だ。ゆえに話題性や今後のサービス連携、買収金額から判断してTumblrが最も手頃だったとのだろう。