メモリーにUSB、デバッグ困難と
トラブルが多発したSiS630シリーズ
意外にこのワンチップ構成はラインナップが多いのだが、その元になるSiS630を黒歴史にするのは、SiSの中でも例がないほどトラブルが多かったためである。
SiSで最初にトラブルが多かったのは、SiS500(1992年)~SiS5510(1995年)あたりの製品である。これはもっぱらPCIのインプリメントに関わる部分で、当時はまだPCIそのものの仕様書に穴や漏れがあったため、やむを得ない部分もあるが、それにしてもSiSのマシンにPCIのカードを挿してもまともに動かないという話が頻発した時期である。さすがにSiS630ではそうした問題はなかったが、以下のような三重苦であった。
- ノースブリッジではメモリコントローラー周りがまともに動かなかった。
- サウスブリッジではUSBコントローラーがまともに動かなかった。
- ワンパッケージ化したことでデバッグが非常に困難になった。
まずメモリー、SiS630ではSDRAMに加えてNEC(現エルピーダ)の開発したVCM(Virtual Channel Memory)という独自規格のメモリーもサポートしたのだが、これがまともに動かなかった。当然ながらVCMが新規に加わった要因なだけに、当時のNECのエンジニアがSiSと共同で修正に当たったのだが、実際はVCMではなくメモリコントローラー全体の問題だったようで、当時のNECのエンジニアはVCMと無関係なデバッグを延々とやる羽目になったそうだ。
次がUSBで、これが最終的にかなり尾を引くことになった。SiSは自社でUSBコントローラーの開発に挑んだのだが、他社のOHCIコントローラーが1コントローラーあたり2つのUSBポートをサポートするのに対し、SiSはなぜか2コントローラで5ポートという訳のわからない構成であり、続くSiS630S以降も2コントローラーで6ポートになっている。
ただ、このUSBコントローラーは最終的にモノにならず、結局SiS640/SiS740以降では、改めて開発したとする別のOHCIコントローラーに切り替わっている。この新しいものは1コントローラーあたり2ポート構成になっており、内部的な改良や修正ではなく、完全に入れ替えになったようだ。この当時はUSBのニーズはまだ非常に少ないから動かなくても許されたが、今だと致命傷だっただろう。
最後がパッケージングで、こうした問題を解決するためには信号を細かくあたる必要がある。通常だとデバッグ用の信号などもパッケージに出ているのだが、SiS630ではワンパッケージ化したためにピン数が足りなく、なので内部のダイからは信号が出ているが、これにあたるためにはパッケージを削らないといけないという恐ろしく手間のかかる話になった。
そもそもこの頃はまだサウスブリッジにあたるところはPCIで繋がっていたため、本来ならばPCIバスのレベルで切り分けが出来るはずが、ワンパッケージ化されたことによりこれが大変に難しくなった。
こうしたトラブルの結果、本来は1999年5月にリリース予定だったSiS630のリリースは2000年1月まで伸びることになった(関連リンク)。
前述のプレゼンテーション資料の画像は、同社が1999年6月のCOMPUTEXにおける展示の折に利用していたもので、その当時既に搭載製品なども展示されていたのだが、あくまでも製品展示で動作デモはなかったので、リリースできるわけもない。しかも、SiS630に統合されたSiS305の性能は、特に3Dに関してはIntel810にすら遠く及ばないレベルで、価格以外のメリットはほぼ皆無といった状況であった。
多少なりとも改善されたSiS630Sが投入された2000年10月には、既にインテルはグラフィックを強化するとともにAGPポートを復活したIntel 815を投入しており、しかもSocket 370そのもののマーケットがインテルのPentium 4への移行によって2001年以降急速に縮小傾向となっていった。 こうした状況で、最初に8ヵ月の遅れが出たことのペナルティは大きく、比較的順調に製品を投入できたVIA TechnologiesにSocket 370互換チップセットのマーケットを奪われた。
なにが悪かったかといえば、もちろんUSBやメモリーの問題も大きかったのだが、それをこじらせたワンパッケージ化が最大の問題だったのだろう。これに懲りたSiSは、このファミリーを最後にワンパッケージ化を一切しなくなるが、残念ながら決断が少し遅かったのが、この製品を黒歴史入り化させた最大の要因だろう。
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