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常見陽平の「ソー活のバカヤロー」 第1回

「世界一即戦力な男」の巧妙な戦略

2013年03月13日 16時00分更新

文● 常見陽平

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'14年卒の就活シーズンがまっさかりだ。近頃はウェブやソーシャルメディアを使って就活する「ソー活」も増えている。さぞデジタルネイティブたちがメディアを華麗に使いこなしているかと思いきや、残念な実態も。ソー活の現状をレポートしよう。


 ‘13年2月、とあるウェブページが話題になった。「世界一即戦力な男」を名乗る’14年卒業予定の就活生・菊地良氏が履歴書代わりに立ち上げたページで、自身のワークビジョンや今までの活動実績、世界の人々からの称賛の声まで掲載されている。ニュースサイトでも取り上げられ、2月28日現在Facebookで1.7万「いいね!」、Twitterで4358RT、317件のはてブとなっている。

 また、戦後最年少の23歳で直木賞を受賞した朝井リョウ氏も、受賞作「何者」(新潮社)でソーシャルメディアを活用した就活を描いている。学生たちがTwitterやFacebookをセルフブランディングのツールとして使っている様子が登場するのだ。このように、ウェブやソーシャルメディアを利用した双方向の就活=「ソー活」が、学生の間で広まっている。

 こう書くと、デジタルネイティブたちがスマートにメディアを使いこなしている姿を思い浮かべるかもしれない。だが、実態は異なる。

 例えば、冒頭に取り上げた「世界一即戦力な男」。

 ページにざっと目を通せばお分かり頂けると思うが、これは必死な売り込みのようで、完全にネタだ。TOEICの点数も低すぎるし、経歴として上げているのも自虐的なものばかり。もちろん、即戦力の根拠となりそうな経験が具体的に語られているわけでもない。当たり前の話だが、就活でアピールする際に重要なのは「何をやったか」よりも「どうやったか」。過去に物事へ取り組んだ姿勢がまったくわからないので、何も判断できないのが正直なところだ。

 この学生を評価できるとすれば、その話題性と行動力だろう。つまり彼は、このページ上で自分を売り込むことを考えているわけではない。むしろ今回の騒動自体を「学生時代に力を入れたこと」や「自己PR」として、企業にアピールするのが目的ではないだろうか。

埋没しまいとあがく学生たち

 大学の数は増え続けている。‘12年の調査によると大学だけで783校あり、これは10年前と比べ約100校の増加。その一方で、大学への現役進学率は53.6%。加えて「リクナビ」「マイナビ」といった就活サイトを利用したエントリー方式により、どの学生でも企業に応募できる。

 つまり学生は極度に自己アピールをしなければ、企業の目に止めてもらえないのだ。実際に大手企業企業によっては選考が雑になっているため、「世界一即戦力な男」のようにウェブやソーシャルを駆使して目立った行動をした学生が、初期段階の選考で進んでいくこともまた事実。がんばらざるを得ないという意味で、彼には同情する。

 その一方で、学生側のアピールが過剰になってしまうこと、言いっぱなしになってしまう現状もある。この春卒業予定の学生に対する求人倍率は1.27倍で、昨年より0.04ポイント増加したが、依然として低い数値。就活に対する学生の不安は変わらない。

 内定に至るために、自己分析をする/OB・OG訪問をするといった正攻法のものから、過去の成功体験を捏造する/写真を修正するといったいやらしいテクニックまで含めて、あの手この手を使う。「ソー活」も本来の意義を離れ、残念な使われ方をしてしまっている。

 この痛々しくも、力を入れざるを得ない「ソー活」。学生目線、企業目線を含めて複数回に分けてレポートしよう。

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