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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第191回

Tesla K20Xの血を受け継ぐGeForce GTX TITANの損得勘定

2013年02月25日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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ディスプレーのリフレッシュレートを
オーバークロック

 画面出力機能は、そもそもTesla系は画面出力が不要なので、K20X/K20共に出力機能を持っていないが、TITANではリファレンスの場合、DVI×2+HDMI+DisplayPortの4画面同時出力機能が搭載されている。これはTITANで追加されたというよりもK20X/K20で削られたものを復活したかたちだ。

 これに絡んで、TITANで搭載されたものにDisplay Overclockingがある。液晶ディスプレーのリフレッシュレートは60Hzが上限である。ただFPSゲームなどでは、もっとフレームレートが上がったほうが操作感が良好になる。そこで、強引にディスプレーのリフレッシュレートを60Hzより上げることで操作感を改善しよう、という機能だ。

例えばビデオカードの内部的には90fpsでレンダリングが可能であっても、従来の環境では出力時に60Hzにされてしまう

そこで、ディスプレーのリフレッシュレートを強引に上げる機能がDisplay Overclockingである。画像の80Hzはあくまでも一例だ

 ディスプレーの仕様上、これは可能である。例えばデュアルリンクDVIの場合、最大ピクセルクロック(信号の転送速度)そのものの規定がない。最近普及を始めた解像度2560×1440ドットのディスプレーを60Hzで駆動する場合、DVI-Dのデュアルリンクでピクセルクロックは157MHz程度で対応できる計算だ。DVIの信号は200MHzあたりまで引き上げることが可能であり、その場合には、おおよそ80Hzのリフレッシュレートとなる。

 もっともこのDisplay Overclockingは、どんな液晶ディスプレーでも可能というわけではない。これを可能とするツール自体がNVIDIAではなくカードベンダーから提供されるうえ、「すべてのモニターでオーバークロックできるわけではないので、出来るかどうかは自分で試さないといけない」という注釈がついているような機能である。おそらくカードベンダーが「このディスプレーならオーバークロック動作可能」といったリストを出すことになるであろう。

より高い電圧まで引き上げ可能になった
新GPU Boost

 次はTDPとGPU Boost 2.0を説明しよう。TDPは、K20Xが235W、K20が225W、対してTITANでは250Wとされているが、これはコアやメモリークロックの違いを考えれば妥当な数字だ。加えてTITANではGPU Boost 2.0が実装されている。

 GeForce GTX 680に搭載されたGPU Boostは、消費電力およびコア温度にゆとりがあれば、その分動作周波数を引き上げる(図1、2)。インテルのTurbo BoostやAMDのTurbo Coreなどと同等の仕組みであるが、GPU Boost 2.0ではここにさらなる上乗せを積んだかたちだ(図3)。

図1 GPU Boost 2.0は、動的に消費電力を測定し、Power Targetまでにまだゆとりがあるなら、その分動作周波数を引き上げる仕組みだ

図2 温度も同様で、コア温度が最大温度未満であれば、その差に応じて動作周波数を引き上げる

図3 最終的にはコア温度がキーになるので、最大温度での上乗せは0になる部分は従来と変わらないが、それ以下における上乗せがより増すイメージになる

 GPU Boost 2.0をどのように実現したかというと、1つはより電圧を引き上げたことだ。GPU Boost 1.0では、電圧の選択範囲はVrelと呼ばれる範囲に留められている(図4)。ところがGPU Boost 2.0では、このVrelを超えてVrelnewと呼ばれるより高い電圧まで引き上げが可能になっている(図5)。さらにユーザーが望めばこのVrelnewを超えた電圧まで引き上げることも可能だ(図6)。

図4 Vrelは「定格の」最大電圧。本来のシリコンダイが想定している寿命を維持できる電圧範囲である

図5 「どこまで引き上げ、その結果どこまで寿命が短くなると想定されるか」に関しては未公開

図6 Vmaxがどのくらいかも未公開。注意書きにもあるとおり「信頼性に影響を及ぼすと思われる」というのは、要するに寿命が短くなるということ。これはどこまで電圧を上げるかに依存する

 結果として、動作周波数の分布も変わってくることになる。例えばGPU Boost 1.0における動作周波数分布が図7のような構図だとする。すると、GPU Boost 2.0ではより高い周波数での頻度が高くなる(図8)。さらにOver Voltageをユーザーが設定すると、より高い周波数まで引っ張れるようになる(図9)。

図7 GPU Boost 1.0での温度分布。これは概念図で、カーブそのものは正規分布に近いように思われる。一番頻度が高いのが、Boost Clockの手前にあるのがポイント

図8 GPU Boost 1.0よりも分布の山の位置を高い周波数にシフトできる

図9 赤線の部分は危険領域でもあって、ここを多用すると加速度的に寿命が短くなる

 これを可能にするのは、より攻めた温度管理である。GPU Boost 1.0での温度分布は図10のようになっている。GPU Boostを使うと、これが図11のようになる。GPU Boost 2.0では、ターゲット温度を図12のように80度からさらに上げることも可能である。

図10 図7~10もそうだが、これは稼働中の概念図である。ダイそのものの上限は105度に設定され、ターゲットは80度あたりとなる

図11 GPU Boost 1.0よりも細かく、かつ精密に電圧/動作周波数を管理することで、ターゲットである80度前後の頻度を非常に高くする

図12 ターゲット温度を引き上げると、その分温度的にゆとりがでるので、より動作周波数を上げられる

 結果として、温度を10度上げればその分動作周波数の頻度分布もより高いほうにシフトする(図13)。ファンの制御も、ターゲット温度にあわせて動的にシフトする(図14、15)。

図13 温度を10度上げれば、動作周波数も高いほうにシフトする。どの程度かは個体差もあるうえ環境にも依存するため、一概には言いにくいのであろう

図14 通常のモードでは、80度までは静粛モードで動く。80度を超えるとファンの回転数が上がってゆく

図15 ターゲット温度を90度にすると、それにあわせてファンが稼動を始めるしきい値も90度になる

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