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【スペシャル鼎談】清水亮×増井俊之×遠藤諭

世界をプログラミングせよ! でもってMOONってな〜に?

2012年12月28日 16時00分更新

文● 広田稔 語り●清水亮、増井俊之、遠藤諭

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「すばらしい新世界」を引用したムービー




遠藤 それでどんなショートムービーになるんですか?

清水 MOONに関していうと、どうせ売れないから、MacintoshもLisaも売れなかったよねっていう。とにかく目立たなければいけないだろう。Macintoshの「1984」みたいなのを作らなければいけない、と。

増井 あんなの作るんだ。

清水 だから樋口さんを引き込んだのがいいっていう。でも「1984」をそのまんまパクったらつまんないよねって。

遠藤 ありがちだよね。

清水 実際、モトローラがやってるんですよ。それがかっこ悪い。




清水 ともかく「これはちょっと俺たちの想像力ではその先に行けない」と樋口さんと二人で話していたときに気づいて、そこで東浩紀が出てくるわけです。「1984」はジョージ・オーウェルでしょ。20世紀のディストピア小説には、オルダス・ハックスリーが書いた「すばらしい新世界」という作品もあって、これが見事に「1984」の対照的な内容なんですね。「1984」はビッグ・ブラザーに管理されるディストピアなんだけど、ハックスリーの書いた世界は快感に毒されている。快感しかないが故に、人が自分でものを考えられなくなっている。そのハックスリーを引用すべきだという話で、ショートムービーのストーリーが作られた。

 東浩紀が言っていたんだけど、現実に存在していて売れているタブレットは、耳と目のデバイスだと。でもMOONは手のデバイス。映像の中でも手が拘束具にはめられて、親指と人差し指しか動かなくなっている。それで白いリンゴの表面をなぞっている。

思想家の東浩紀。UEIのCPO(チーフ・フィロソフィー・オフィサー)を務める

遠藤 ある部分ではタブレットは手のデバイスではあると思いますけどね。さっきの言語の発生の話じゃないけど。宇宙物理学者の池内了が、確か70歳くらいなんだけど「携帯電話は手の延長だ」と書いていましたね。

清水 それは一部そうだと思うけど、その方向性にいく限りアップルには勝てない。とにかくアップルやグーグルじゃない、もちろんマイクロソフトでもない方向性。アップルのフォロワーがグーグルやマイクロソフトだとすると、僕らはフォローしつつも別の道を行く。それがやろうとしていること。

 だからみんながタブレットに期待していることは、何も実現できないような感じです。たとえば、うちの親父にMOONとiPadのどっちをプレゼントするかというと、間違いなくiPadをあげる。MOONは、iPadを持っていようがAndroidタブレットを持っていようが、買う人は買う。いらない人はいらない。まったく別の目的がある。ひとつだけ明かすと、ムービーの再生ができない。

遠藤 ふーん、そうなんだ。

清水 あとはベースの部分はぶっちゃけオープンソースのAndroidを使っていて、その上にenchant.jsで作られた「MOON PHASE」がフロントエンドとして載る。

遠藤 enchant.jsと関係してるんだ。

清水 そう。その上にいろいろアプリがのっかると。enchant.jsもそうなんだけど、MOON PHASEの企画にも僕は関わってない。オブザーバー的な視点で見たときに、「こんなものは世の中で見たことないな」というモノだから大事にしているという。僕が考えたなら、みんなが想像できるでしょ。しょせんオッサンだし、長年この世界にいるわけだし。

遠藤 ここにいるジジイ三人衆みたいに、あーでもない、こーでもないと。

清水 そうそう。ガワも基本的にはエンジニアじゃない人が担当しています。樋口真嗣の元で一緒に考えた人がいて、それが面白いわけです。

増井 最近の人ほどその辺が考えられないって話もあるけど、違うんだ。

清水 選べば考えられる人はいますよ。

遠藤 ちょっと自分のパソコンの中のメモを見てたんだけど、ハックスリーって「技術の進歩は我々が後戻りするときにより能率的な方法を用意する」と言っているんですね。

清水 ああ、退化するときにって。

遠藤 深いですね。

清水 ある意味、快楽主義みたいなものがユーザーインターフェースにはびこっていると。

増井 退化の道だったんだ。

遠藤 技術の進歩がそうだってのは面白い。

清水 そこに対するアンチテーゼというほどでもないんだけど、僕らはこう考えているんだよって……。幼稚園児から老人まで使えるものを目指している。スティーブ・ジョブズが育ての母に使えるコンピューターを作りたいっていったときに、まだ40か50代だった。結構若いから、今のMacは使えるんですよね。でも、ビデオデッキの録画予約もできないようなうちの母親は使えなくて、そういう人でも未就学児でも等しく扱えるのが次のコンピューターだと思っている。

 アラン・ケイがゼロックスで「Smalltalk」と「Alto」を作ったのだって、小学生にプログラムを書かせるとかじゃないですか。それが未来の道だと信じている。僕らも来年、小学校で授業をやるんです。そういう場所でつかえるようなものを作ろうとしている。

遠藤 それって「すばらしい世界」に対してポジティブに、適切な情報だけのこしてほかは捨てるって意味?

清水 そういうのじゃなくて、まったく逆。Google NOWのような世界から違う世界に行こうという。

遠藤 「1984」をディスったように、素晴らしい新世界をディスっているという。

清水 そうそう。

遠藤 何年か前に「象徴的貧困」って言葉が話題になって、本も出ていた。情報が豊かになると、今度は「午後は○○おもいっきりテレビ」とか「発掘!あるある大事典」とか、その手のリコメンドものが盛り上がり過ぎるのが問題になるんだよね。情報はすごく溢れているのに、逆に限られたものにしか身をゆだねなくなる。それを、ベルナール・スティグレールというフランスの哲学者が「象徴的貧困」と呼んだ。MOONも、与えられ過ぎて自分で意味を見出す力が欠如している今の世界に対する強力なアンチテーゼだと。

清水 なるほど、象徴的貧困ですね。

遠藤 さらにややこしいのは、ソーシャルメディアで世界が広がるかと思うと、逆に世界が閉ざされるようなことも起きうる。

清水 あともうひとつ言っておきたいのが、MOONは常時接続を想定していないってこと。3Gを搭載した機器を僕らが作っても売れないじゃん。

遠藤 相手はグーグルだね。俺の印象では。

清水 敵が?

遠藤 「WDYL」ってグーグルのプロジェクトがあるんだよね。「What do you love?」の略で、その人に取ってラブなものから検索させるという。「すばらしき新世界エンジン」ですよ。このプロジェクトの目的は正直なところ謎なんだけど、グーグルはそういうことを目指しているんじゃないか?

清水 MOONは、まったく逆のエンジンですよ。グーグルはデカすぎてライバルではないけど、非グーグル的な世界観ではある。

遠藤 「I'm Feeling Lucky」みたいな楽観主義ではないだろうっていう。

清水 MOONは、第一世代機はあまり中身をいじれなかったんだけど、第二世代機以降は、NFCとかを入れていって、増井さんがおっしゃってる実世界コンピューティングとかも徐々に取り入れていきたいと思っています。

遠藤 今日の話の展開は、全世界プログラミングというか、実世界コンピューティングと関係ありってところからMOONの話になっちゃったしね。

清水 実世界コンピューティングというくくりがあったとして、それをいきなり全部実現することは無理。会社がちっちゃいしさ。だからその中の一部、「これに対する回答はまだ誰も出してないよね」ってところに刺さるものを出す。逆説的なんだけど、論文は出しても査読は通らないけど、特許はいくつも取ってます。もう5年ぐらい研究しているから。

遠藤 5年もやってるの。

清水 iPhoneが出る前から研究しているから。具体的な形になってきたのが5年前。いろいろなプロジェクトが走ってる中で、enchant.jsってのがたまたま出てきて成功したから、これと組み合わせれば初めてうまく行くかもしれないみたいな話になってきてやっと実装が追いつきそう。

遠藤 いいですね。


 
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