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iPad授業に「会社みたいな学校」と順応する中学生

2012年12月27日 11時00分更新

文●澁野義一/アスキークラウド編集部

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 東京都港区の広尾学園中学校・高等学校は、今年入学した中学1年生の全員にiPadを持たせて授業に活用する試みを始めた。生徒たちは筆記用具やノートを扱うようにiPadを使い、学習に役立てているという。報道関係者に公開された授業の様子から、ICT教育の最先端に迫った。

 

iPadの導入で変化する学習スタイル

 「まるで会社みたいな学校です」。広尾学園中学1年生のW君がはにかむ。プレゼンテーションの資料を「Keynote」で作り、「Numbers」で自分の成績や勉強時間を管理する。先生とのやりとりは「Gmail」だ。試験が終わるとすぐに解答と解説がメールで送られてくるので、帰りの電車で勉強する。配布されたプリントは自宅でスキャンして「Evernote」にアップロード。彼は「どこでも(資料を確認して)勉強できるのが魅力」と胸を張った。

 広尾学園では今年、入学した中学本科クラス1年生204名にひとり1台ずつiPadを導入した。すでに高校の一部のクラスではiPad利用の実績があったが、より早い時期から生徒の可能性を広げられるよう、中学1年生からの導入に踏み切った。「情報端末(iPad)の導入は教育の『仕事』だ」。同校のICT教育責任者・金子暁氏は断言する。「(教育のICT化を)やらないという選択肢はないし、やらないということは仕事をしないことと同義だ」。

 無線LANが張り巡らされた教室には、黒板の代わりにホワイトボードが用意されている。教師はPC、生徒はiPadを持ち込み、必要に応じてプロジェクターで画面を投影する。本日の課題は期末試験の復習だ。「Google Drive」で用意された小テストに生徒はiPadで解答し、送信。教師はデータを集約して、プロジェクターで投影しながら解説を進める。クラス全体の理解度やミスの傾向などを、リアルタイムで授業に反映できるわけだ。

ICTは21世紀型の人材を育てるツール

 iPadは学園が配布するのではなく、生徒に購入してもらう。まさに中等教育におけるBYODの実践と言えるが、それだけに扱いも慎重だ。iPadはあくまで勉強道具という位置づけで、生徒には利用のガイドラインを配布し遵守するよう促している。もちろんアプリや音楽は自由にダウンロードできず、自宅PCとの同期も不可能。校内の無線LANは生徒用と教師用の2系統を用意し、前者にはアクセス制限を設けている。

 メールの利用にも気を配っている。監視役の教師を学年でひとり用意し、生徒のGmailの内容をチェックできる体制を作っている。「あくまで中学1年生のみの暫定的な措置だが、監視役を立てることで生徒にメールを自由に使ってもらうのが目的」(同校関係者)という。情報リテラシーを身につけるまでのステップとして、また生徒自身の身を守るためにフィルタリングは必要というのが同校の姿勢だ。

 もちろん、ICT化の促進が同校の目的ではない。基本的には、iPadを忘れても授業に深刻な支障をきたさないようカリキュラムを組んであるという。ICTはあくまで、コミュニケーションや思考共有のためのツールにすぎない。「ICTが高度になればなるほど、感性などの人間的な部分の教育が重要な課題になる。生徒が自分自身の『感じる力』を第一に信じられるような教育を目指したい」(同氏)。

 広尾学園のICT教育の根底には、21世紀を担う人材を育てるための明快なビジョンがあった。今後の教育を考えるうえで、同校は重要なモデルケースになるはずだ。

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