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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第10回

海外への引っ越しで気づいた、電子書籍/コンテンツのデジタル化

2012年12月20日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura

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変化する音楽市場とデジタルの役割

 米国ではCDセールスからデジタルへ、コンテンツ販売からライブへ、という音楽ビジネスそのものの変化が見られ、テクノロジーが果たす役割も重要性を増しています。しかしCDほどの売上をデジタルの音楽が達成しているかと言われると、決してそうではないことが分かります。(参考:インフォグラフィック:http://dailyinfographic.com/the-digital-music-industry-infographic

 日本では2011年のデータでも、依然として音楽CDとDVDは約3500億円の市場規模を保っており、2009年の段階で米国のCD市場を追い抜いているのです。また見逃せないのはケータイ向けのコンテンツ販売。着うたフルだけでもケータイ向けコンテンツはデジタル音楽販売の半分を占めています。これまではケータイのキャリアを変えたり機種変更をすると音楽が聴けなくなる、という不安もありましたが、スマートフォン化が進む市場において、着うたフルを提供する各社は、ケータイで購入した音楽をスマートフォンに移行できるサービスを提供しつつあります。

 米国でiTunesがクラウド対応になって、デバイスの移行だけでなく再ダウンロードも可能になる「コンテンツ・ロッカー」の役割を果たしてくれるようになりました。またそもそも1曲ずつ買うのではなく、好きなジャンルの音楽を楽しみながらお気に入りを発見するSpotifyのような「音楽ストリーミング」を楽しむサービスも生まれています。

 この2つのトレンドと、依然強い日本のケータイ音楽市場が、今後どのように変化したり、関係したりするのか、一音楽好きとして注目していきたいところです。

電子書籍によって
出版業界は変化の10年を迎えている?

ランドリーでの風景。Kindleで本を読む人の姿は珍しくない。

 アメリカ西海岸は基本的にクルマがないと移動が不便なエリアではありますが、サンフランシスコ周辺には「BART」と呼ばれる高速鉄道が走っており、電車での移動や通勤・通学が可能です。朝サンフランシスコ市内に向かう電車の中では、モバイルゲームやメールなどのメッセージにいそしむ人も少なくありませんが、Kindleで本を読む人を見ない日はありません。割と普通の風景として電子書籍があります。

 日本では2010年にiPadが発売された際、多様な活用方法の1つであるはずの「電子書籍」への気運が非常に高まったのを覚えています。しかし2010年に読書のスタイルが電子書籍に移ったかと言われると、決してそうではありませんでした。AppleはiBooksという電子書籍のプラットホームを持っていますが、日本では今もなお、ストアがオープンしていない状況です。

 iPad以前から、日本ではケータイで小説を読んだり書いたりする、「ケータイ小説」のカルチャーがありました。またiPhoneアプリとして作品を公開する作家の方もいましたが、米国のKindleのように、ほとんどのタイトルが紙とデジタルで出版されるという環境とは異なっていました。もちろんKindleも、登場した当初から現在のような“電子書籍が当たり前の風景”を作り出していたわけではありませんでした。

 そして今年、2012年は日本でも電子書籍の本命と言われているKindleとコンテンツ販売がスタートしました。これまで日本でも出版社や書店、デバイスメーカーなどを中心とした電子書籍のプラットホームが乱立している状態にありましたが、Kindleの登場は電子書籍市場をより刺激し、活性化させてくれるものでした。やはり、電子書籍のブランドと、電子ペーパーと通信モジュールを備えた軽い端末は、日本でも競争力があります。

 おそらく、2010年から2012年の間に、日本でも本のデジタル化が本格化する10年が始まったのではないかと見ています。もちろん、筆者が音楽で10年もの時間をかけてデジタル化とポータビリティーを獲得したからと言って、他の方々が他のメディアに同じ期間がかかるとは限りません。実はもっと早いかもしません。

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