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レディー・ガガに学ぶ「クチコミ」の作り方

2012年12月14日 13時48分更新

文●泉 浩人/ルグラン

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 WOMMAという団体をご存じだろうか? 正式には「Word of Mouth Marketing Association」という米国に本拠を置くNPOで、日本語にすると「クチコミマーケティング協会」といった感じだろう。

 この団体が年に1度、主催しているイベントがWOMMAサミットであり、今年も11月12〜14日の3日間にわたって、ラスベガスのホテルで開催された。

WOMMAサミットの会場。ラスベガスでも豪華なホテル

WOMMAサミットの会場となったのはラスベガスのホテルWynn。ラスベガスでも1、2を争う高級ホテルだそうで、内装も派手!

クチコミは質屋とレディー・ガガに学べ

 今年のWOMMAサミットで特に印象に残ったのは、クチコミマーケティングのロールモデルとして、親子三代がラスベガスで経営する質屋と、レディー・ガガを取り上げた2つのセッションだ。

 まず、初日の基調講演に登場したのが、米国のケーブルテレビで最高視聴率の記録を持つリアリティ番組「Pawn Stars」(邦題「アメリカお宝鑑定団ポーンスターズ」)に登場するリック・ハリソン。

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ラスベガスの質屋の二代目、リック・ハリソン氏

 偽物のグッチを売るという「商売」を極めるために高校を中退したリックは、その後、父親が始めた質屋の仕事を手伝い始める。あるとき、テレビ局の取材を受けたことをきっかけに、質屋の仕事がリアリティ番組として成立すると感じたリックが、テレビ局に企画を売り込んだのがブレイクのきっかけだ。

 リック自身は、マーケティングのプロでも何でもないが、質草として持ち込まれるさまざまな品物にまつわるストーリーや、それらを1円でも高く売りたい人たちとの真剣勝負のやり取りは、見る人たちの格好のクチコミネタになると感じ、テレビ局にアプローチしたそうだ。

 だから、番組がメジャーになった今でも、リックは常に「ウソをつかないこと」を大切にしている。なぜならば、番組にちょっとでもウソや演出があると、視聴者はそれを敏感に察知するだろうし、そんな作り話を、ワクワクして誰かに伝えたいなどとは思わないだろう。

 先日のad:tech Tokyoでも、基調講演に立った米フェイスブックのマーク・ダーシー氏が、Facebookをマーケティングに活用するにあたっては、「オーセンティック」であることが重要だ、という話をしていたが(関連記事)、リックも本能的に、その重要性を理解していたのであろう。

 ちなみに、リックも、最近はTwitterやFacebookも使い始めたそうだが、彼にとってこれらはあくまでもクチコミを広めたり、ファンと対話したりするための「ツール」であり、ソーシャルメディアだからといって何か今までと変わったことはしているわけではないそうだ。

レディー・ガガが重視する「ワンパーセンター」とは

 続く2日目には、WOMMAの創設メンバーでもあるジャッキー・フーバ氏が、「レディー・ガガに学ぶマーケティング戦略」というテーマで話をした。

ジャッキー・フーバー氏

ジャッキー・フーバ氏の講演風景。ステージから降りてきて、参加者と軽妙な掛け合いをしながら進めるプレゼンは日本ではなかなか見られない

 レディー・ガガといえば、Facebookで約5400万人のファン、Twitterでも3100万人あまりのフォロワーを集めたことで、ソーシャルメディア活用の成功事例として取り上げられることも多い。

 だが、フーバ氏は、レディー・ガガの凄さについて、ファンやフォロワー数の多さではなく、その中の1%の熱狂的なファン(=ワンパーセンター)とのエンゲージメントを築くための戦略にある、と力説する。

ファンにアイデンティティを与えよ

 レディー・ガガはファンのためのコミュニティサイトを持っているが、そこで彼女は、ファン達に「リトル・モンスター」という称号を与えている。これは、レディー・ガガのファンたちに、特別なアイデンティティを与え、それを見た第三者にも、自分もモンスターの仲間に加わりたいと思わせる効果がある。

ファンにシンボルを与えよ

 さらにレディー・ガガは、モンスターの手をまねた独特なジェスチャーや、ポニーテール姿のガイコツといったシンボルを創り出した。こうしたシンボルは、ファンだけが理解できる「暗号」として、ファン同士、さらにはファンとレディー・ガガとの連帯意識を強める役割を果たしている。

ファンをスターにせよ

 世界的なスーパースターであるレディー・ガガは、ファンをスターに仕立てるのも得意だ。たとえば、彼女のコンサートに一番乗りをしたファンに特別なプレゼントをあげたり、会場のファンにいきなり電話をかけて、楽屋に招待したりする。こうした栄誉に浴したファンは、当然、この素晴らしい経験を色々な人に話す。一方、これを見た人たちは、羨望のまなざしを浴びせながら、いつかは自分も「ワンパーセンター」の仲間入りを果たそうと、とさらにレディー・ガガにのめり込んでいく

 フーバ氏は、こうしたレディー・ガガの戦略を紹介した上で、これらは、自社の商品やブランドのファンをクチコミを通じて増やしたいと考えている多くの企業にとっても、学ぶ、あるいはマネできる点が多々あるはずだとしている。

 そして、講演の最後に「WOMMAサミットに来てくれたみなさんへの特別なプレゼントとして、今日はレディー・ガガを呼んでいるのよ!」と言い残して、ステージを降りた。

フーバ氏の講演の最後にはレディー・ガガも登場?!

 もちろん、これはレディー・ガガのそっくりさん(しかも男性)なのだが、ネットワーキングパーティの席上でフーバ氏に尋ねたところ、彼女(彼?)こそが、フーバ氏とレディー・ガガの間を取り持ってくれた功労者なのだ、という裏話も明かしてくれた。

クチコミ>ソーシャルメディア

 昨今、クチコミマーケティングというとソーシャルメディアに関する話題が中心になりがちだが、WOMMAサミットのメインテーマはあくまでも「クチコミ」だ。「ソーシャルメディア」はクチコミの拡散を促したり、あるいはクチコミの広がりを可視化するためのツールと位置付けられている。

 実際、このイベントに付けられたタグラインは“Creating Talkable Brands”。つまり、このイベントは「あなたの会社や商品・サービスが、人びとの話題の中心になるためには何をなすべきか」を考えためにあるのであって、ソーシャルメディアの活用ノウハウといった小手先のテクニックを論ずる場ではない。

 話は少々横道にそれるが、みなさんは2001年に出版されたセス・ゴーディンの『バイラルマーケティング(原題:Unleashing the Ideavirus)』という本を覚えているだろうか?

会場で売られていた

会場内の書籍販売コーナーの真ん中で売られていたのは、セス・ゴーディンの「バイラルマーケティング(Unleashing the Ideavirus)」

 TwitterやFacebook誕生以前に書かれたこの本は、クチコミマーケティングを考える上で、さまざまな示唆を与える一冊であり、WOMMAサミット会場内の書籍販売コーナーでも大々的に販売されていた(日本のAmazonでは絶版状態で、出品者から中古を買う以外に方法は無く、残念ながら、すでに「過去の本」になってしまっている)。

 実際、他の参加者に色々と話を聞いてみると、特に事業会社でマーケティングやPRに携わっている立場の参加者からは、「自分の仕事において、ソーシャルメディアが占める割合は、職責上も予算上も全体の1〜2割程度」という答えが返ってきたのが印象的だった。

 クチコミマーケティングの原点に帰り、熱いディスカッションが交わされていたWOMMAサミット。来年は、ぜひ、みなさんも参加してみてはいかがだろうか?

著者:泉 浩人(いずみ・ひろと)

東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米国ジョージタウン大学経営大学院修士課程(MBA)修了。三井銀行(当時)、フォード自動車を経て、独ベルテルスマン社のオンライン通販事業(bol.com)を立ち上げる。2002年からはオーバーチュア(現ヤフー)の日本進出に参画、同社取締役として経営全般に携わる一方、大手クライアントや広告代理店に対してコンサルテーションを行なう。2006年にルグランを設立。国内外のクライアントに対し、検索エンジンマーケティングをはじめとするデジタルマーケティング領域に特化したコンサルティングサービスを提供。2008年12月、Yahoo! Googleの検索連動型広告を最大限に活かす『SEM 成功の法則』を刊行。2009年10月に、米国オンライン・リサーチ会社の最大手「ヒットワイズ」社ジェネラルマネージャー、ビルタンサー著の『クリック「指先」!が引き寄せるメガ チャンス』 を監訳。また、2012年3月には、ビッグデータを活用するための情報ブログ「I LOVE DATA」を開設し、ビッグデータをマーケティング活動に有効活用するための情報発信を行なう。直近では、2012年第4回AKB選抜総選挙を予測。新たに構築された予測モデルと精度の高い分析結果が注目され、幅広いメディアで取り上げられる。

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