データ分析で4倍の来店者を実現した事例
大木氏は、データ分析から生み出された例として、全国に店舗を持つ耐久消費財を販売する企業の事例を挙げる。その耐久消費財の会社は、会員カードを発行していて、全国で数百万人の会員がおり、その顧客IDはPOSの購買データとひも付いているという。そして「大きなイベントがあるので、特定の来客者を増やしたいというクライアント様からの要望がありました」とのことで、データ分析を活用して、施策を設計し実施することになった。
これに対して、大木氏のDBマーケティング部は、今回の対象者と非対象者グループの購買行動のどこに差があるかを見るべく、売れる商品や日時はもちろん、平日・土日の売れ筋の違い、商品の付帯サービスの利用、年間での買い物の回数、顧客の住んでいるエリアなどをさまざまなデータを分析したという。「たまたま店舗に併設されているレストランの購買データをぶつけてみたら、今回の対象者グループと非対象者のグループではレストランの利用率が極端に異なることがわかったんです。そこで、先方の担当者の英断もあって、従来から優良顧客に配っていた2000円引きのクーポンを止め、お食事券だけを贈ったんです」(大木氏)。クライアント社内の各種キャンペーン情報掲出の依頼もシャットダウンし、食事券で来客を増やすという施策にかけたわけだ。
商品を買わないで、クーポンで食事だけをしにくる客が来る危険性もあったにも関わらず、この施策の結果、来店率はなんと4倍に跳ね上がった。今回の対象顧客の販売データとレストランの利用率の相関関係が、まさに「データの山の中にある松茸」。その結果の施策が顧客に大きく影響を与えたわけだ。「しかも食事だけではなく、実際は9割が商品購買に結びつき、客単価も上がったんです」(大木氏)とのことで、クーポンを持った人がレストランに列をなしたという。
こうしたキャンペーン施策のほか、購買動向から客単価を上げる示唆を得たり、オンライン、あるいはオフラインからリアル店舗へ送客するといった施策などでデータ分析が活用されている。「特に自前のチャネルを持たないメーカーの場合、顧客の動きを可視化することは容易ではありません。自社の商品をいっぱい買ってくれても、それらはスーパー等流通小売にひも付いているデータだからです」(大木氏)。そのため、コミュニティサイトや直営ショップを作ったり、店舗送客を意図したハガキ付き折込みチラシを実施したり、さまざまな方法でデータの収集を試みている。こうしたチャレンジの中で、SNS活用も増えているという流れがあると、大木氏は分析する。
つぶやきだけを集めてもしょうがない
では、大木さんのようなダイレクトマーケターにとって、ビッグデータとはどんな存在なのか? 大木さんの答えは「つまるところ、私たちは顧客データ、購買データ、施策データの基本の3点セットがあれば、最低限のレポートはできます。従来から使っていたデータが取得しやすくなったという環境の変化や、リアルタイム性は、精度向上を後押ししています。広告や販売の世界ではクイックなPDCAは非常に重視されますから」というもの。もちろん、精度が高いに越したことはない。データ同士の相関関係が明確になっていれば、より好ましい。しかし、売り上げを上げるにはどうすればよいかという目標を考えると、主なデータ分析内容は実はシンプル。そもそもビッグデータとは、その大きさよりも、精度やリアルタイム性のほうが重要で、影響も大きい。
さらに大木氏は、センサー技術の進化などで取得できる新しいデータに注目している。「技術的にどうすればいいかはわかりませんが、特定のお客様が商品を買わなかったデータをとれたら、これはすごいことだと思います。お店の中で商品をとったのに、結局買わなかったというデータを施策に活かしてみたいですね」(大木氏)と話す。
逆にビッグデータの代名詞ともいえるSNSに関しては、まだ本格的な活用にまで至っていないという意見。「確かに行動の結果としての意見は集まるでしょうが、そこからの発展性がありません。たとえばTVで放映されたら、バナナが売れるとか、外部データとの相関性が重要になると思います」(大木氏)とのこと。蓄積されるデータは多いが、蓄積されるだけでは意味がなく、データの掛け合わせの方がキモになるというのが大木氏の意見だ。
なににせよ、大木氏が勧めるのが、とにかくデータ分析を始めること。「DBマーケティング部という看板を作ってしまったので、なんか分析してくれるんでしょ?と案件が持ち込まれることも増えましたね(笑)」(大木氏)とのこと。現状は、同社でも広告の企画・実施の付帯として行なっているビジネスではあるが、今後IT活用がますます高度化していくなかで、大きな拡がりが期待できるといえよう。
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