ARMコアをAMDがデスクトップに
使う可能性は当面ない
それでは本題である2013年以降の話に入ろう。AMDのロードマップでは、連載178回と179回で説明したARM「Cortex-A57/A53」の影響がどこまで出るのかが注目されるところだ。しかし2015年以降はともかく、2013~2014年の製品計画の中で、ARMコアがデスクトップに降りてくることは考えられない。これはAMDの発表からも明らかである。
下の画像は、10月29日に開かれた「AMD News Conference」で示されたプレゼンテーションからの抜粋であり、AMDがARMコアのマーケットをどう考えているかを示したものだ。AMDはCortex-A57/A53で、現在のx86を性能的に代替できるとはまるで考えていないことがわかる。
この画像のキーワードは「Hadoop」「Cassandra」「Memcached」あたり。端的に言えば、Hadoopは処理を分散させるためのフレームワーク。Cassandraは分散データベース用の管理システム。Memcachedはデータベース用のフロントキャッシュである。いずれも、大規模なデータベースや処理システムをたくさんのマシンに分散させて処理するための道具と考えればいい。
179回でも説明したが、Cortex-A57は3命令のアウトオブオーダーパイプラインだから、理論上3命令/サイクル程度の性能になる。これはインテルのSandy Bridge~Haswellにはもちろんのこと、ケースによってはBulldozer/Steamrollerにも及ばない程度でしかない。
Bulldozer/Steamrollerは、コアあたりで言えば2命令/サイクル換算に落ちる場合もあるが、モジュール単位で比較すれば4命令/サイクルのパイプラインになるから、絶対的な処理性能という意味ではCortex-A57で追いつけるかどうか微妙なところだ。だからこそ、AMDも「『Compute Cluster』(計算処理性能が必要な用途)は引き続きx86 CPU/APUが担う」と明言している。デスクトップ用途もこの範疇に入るので、ARMコアを使う可能性はまずないと言っていい。
また言うまでもないことだが、このマーケットではx86プログラムとのバイナリー互換性(プログラムがそのまま動く)が求められる。Windows RTの普及も始まったばかりの現状では、やはりARMコアを使う可能性はないと思われる。
問題は2013年の製品計画に、次の「Steamroller」ベースのCPUコアが間に合うかどうかである。Steamrollerそのものは、すでに2012年8月に開かれた半導体業界のイベント「Hot Chips」で発表されている。最大の特徴はデコード部をコアごとに分割したことで、これにより最大30%の性能改善が可能になったとしている。つまり論理設計に関しては、順調というわけだ。
問題は、このSteamrollerベースのコアを使う「Opteron」や「AMD FX」、さらにAPUが本当に量産できるのかという点だ。GLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスは非常に状況が悪く、AMDが希望する量産体制に入れていない問題がある。元々AMDはGLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスを使って、「Brazos」の後継である「Wichita」「Krishna」を量産する予定だった。ところがあまりに生産状況が悪いため、2011年の末にこれらをキャンセル。やむなくBrazosをマイナーアップデートしてBrazos 2.0として投入した。それから1年経っても、状況はあまり改善していないようだ。
28nmプロセスに苦戦しているのは、GLOBALFOUNDRIESだけではない。サムスン電子もやはり苦戦しており、ようするに半導体製造の協業体「Common Platform」に参加しているファウンダリ全部が苦しんでいる状況である。GLOBALFOUNDRIESの場合、「Cortex-A9のテストチップは28nmでまともに動作した」という話が2012年2月にあった。ただし、これは相対的にシンプルなCortex-A9コアを、GLOBALFOUNDRIESでの製造に最適化して半導体の物理設計を簡単にするためのライブラリ(物理ライブラリ)を使って製造した場合の話。もっと複雑回路で大きなダイサイズのコアを作る場合にも、同じように動作するとは限らない。
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