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保存期間は3億年? 最強のメディアの正体を日立製作所に聞く

2012年11月19日 12時00分更新

文● 美和正臣 撮影●小林伸

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データの保存可能期間は3億年以上?

――再生装置として具体的にどういったものを考えてられているのですか?例えば光ディスクのドライブのように丸っこい形にするのか、昔のPDみたいなカートリッジに入れて再生する方式みたいなものを考えているとかありますか?

渡部:今回、低倍率の顕微鏡で、高い品質での再生が可能であることがわかりました。具体的な形態は未だ考えていませんが、実用化においても、低倍率の光学系をベースとして、媒体の移動もなるべくラフでいいようにすべきと考えています。遠い将来、再生機が再構築、つまりエミュレーション可能なものでないと恒久的な保存には向いていませんので。

――なるほど。それでは、記録装置の方ですが、例えば貴重な過去の文献をデジタル化して残しておきたいという話になったときに、国会図書館の中で記録できるくらいのものが簡単に提供されるわけでしょうか? すさまじいレーザーが出力されるわけですよね。そんな装置が簡単に作れて、国会図書館に置けるのかという疑問があるのですが。

塩澤:実際にどのようなビジネスにしていくかは検討中なんですけれども、最初はサービス業になるかなと思っております。

――と、言いますと?

塩澤:お客様からデータをお預かりして、それを弊社で記録してサンプルだけを納入する形ですね。従来の光ディスクのように、お客様の方で記録するものとは異なると考えています。

――記録としては1000年以上保持できるのでしょうか?

塩澤:加熱試験によって、耐熱性だけではなく、寿命も推定できます。光ディスクとか半導体の世界でよく使われているアレニウス法というのがありまして、簡単に申し上げますと、高温にさらしてわざと劣化を早めて、逆に室温で保管した場合はどれくらい保つのかという予測をする試験です。その結果、2009年に発表した記録だと、だいたい3億年ほどの寿命が期待できるということがわかっていました。

――3億年ですか。ああ、人類とは違う、何かが繁栄してそうですね(笑)。

渡部:これは、あくまで室温で保存した場合の期待寿命ですが。

塩澤:一方、今回発表したサンプルはそれよりも耐熱性が十分ありますので、少なくとも3億年以上は保つと考えられます。元々劣化を早めて、じゃあ逆に室温で保存したらどれくらい保ちますかという予測の仕方ですので、劣化しないと予測できないんですけど、今回まったく劣化していないので半永久的な寿命があると考えられます。

――これだけ長期間保存できるとメディアとしては最高ですよね。あとは容量です。2ミリ厚のところに4層じゃないですか。これをもっと分厚くすることによって、高容量の記録ができるんじゃないかと思うのですが、そういうことって可能なんですか?

塩澤:先ほどご説明したように層間の距離は数十μmですので、2mm全体を使えば、もっと多数の層を記録することが可能です。ただし深いところに記録する場合、記録するレンズの収差などの課題があります。

――そうすると、例えばペンダントの中に何百層も記録されて、ということは今のところはできないですね。

塩澤:収差を補正する手段はありますので、それを行えば10数層くらいは、品質を落とさずにいけるのではないかと思います。

――それは今の2ミリ厚のガラスで10数層いけるというわけですか?

塩澤:そうですね。

――このサンプルって結構質の高いガラスですよね。普通の窓枠に使うようなものとは……。

渡部:普通のガラスとは違います。不純物がすごく少ないガラスです。

――99.99とかそういう純度のものですか?

渡部:そうですね。ただ、石英ガラスとしては通常のもので、普通に売っています。SiO2以外はあまり入っていません。普通の板ガラスは金属不純物が入っていますけど、そういうのが少ない。だから耐熱性がすごく高くて、素材そのものが1700℃くらいまでは柔らかくならないんですよ。普通のガラスよりは耐熱度が高いのが特徴です。

――そうなんだ。昔の教会のステンドグラスって、年を経ることに重力に負けて溶けたようになるっていうのがあるうようなんですけど、石英ガラスはそういうことは起きないんですか。

渡部:石英ガラスは、通常のガラスに比べて堅いものですので、重力でゆがむほど大きくするなど、無理な保存方法をしなければ、変化は起こりにくいと思います。また、熱的にも化学的にも他のガラスより安定しています。例えば半導体を製造するクリーンルームの中では、で加熱炉の容器に使われています。そのほか科学用の高級なフラスコとか、ビーカーも石英ガラスが使われています。

――なるほど。今後これってどういうふうにしていきたいですか。ビジネスモデルを組み立てて、当然商売のことを考えていかないといけないですし、こういうところに来てとアピールされるのもいいと思うんですけど。やはり国会図書館とかですかね。

塩澤:光ディスクを置き換えるのではなく、共存するような形になるのかなと思います。どうしても後世に残すべき貴重なものだけを石英ガラスに記録する。容量の面ではまだデメリットがありますので、たくさん保存しておきたい場合や100年くらい保存しておけばいいものは光ディスクに残して、後世に残したいものだけをこちらに記録する。そういった住み分けになるのではないかと思います。

――これって1枚記録するのにお幾らくらいを想定しています? ドットを記録していくために高い出力のレーザーを使うことになり、電気代がまずかかるわけじゃないですか。一般的に考えると、永久に残しておきたいものは1枚あたり1万円くらいがベストかなと個人的には思うのですが。

渡部:まだ研究段階なので、具体的な値段は申し上げられませんが、少なくともレーザーによって、電気代が極端にかかるということはありません。

塩澤:一般的な商用電源で使えるようなものではあるんです。

渡部:パルスの幅が120×10-15秒ととんでもなく狭いので。電力はエネルギーを時間で割り算しますよね。わり算すると分母の時間がすごく少ないので計算上、ピークパワーがすごく大きくなります。平均パワーとしては小さいわけです。

――10数層まで記録することを考えるとなると、後はドットとドットの間の密度ですよね。将来的には何GBまでいくんですかね。

塩澤:DVD相当の密度ぐらいは狙いたいなと。容量はどれくらいの媒体のサイズにするかで決まります。DVDと同じサイズになれば4.7GB。

――とりあえず単位面積あたりであったら、DVDと同じくらいにしたいと。

塩澤:ええ、同じくらいにしたいなと。ただ、ドットとピッチはあくまで光学顕微鏡で読めるようにしたいというのがありますので、あまり縮めたくないなとは思います。

――光学顕微鏡で見えないくらい、ドットも小さいし密度もあるような状態というのは簡単にできるようなものなんですか。

塩澤:おそらく記録のほうはもう少しいけると思っています。しかし、例えば、今ドットピッチが2.8μmですけど、これが1μm以下になると再生するための低倍率の顕微鏡の分解能がついていけない可能性がありますので。

渡部:倍率の高い高級な顕微鏡だったら可視光でも1μm以下のものが見えますが、高倍率で再生できても意味がない。遠い将来でも再生機を簡単に再現でき、十分な品質を確保するためには、できるだけ低い倍率で再生すべきです。そのため、あまりむやみにピッチを狭くすることは得策ではないとおもいます。

――顕微鏡で見えるというのが一番重要なんですね。

渡部:低倍率の顕微鏡ですね。

――デジタルであるようでアナログなんですね。

塩澤:なるべく簡単な再生をするのが前提なので、そこは崩したくないですね。

渡部:そこのスタイルを崩してしまうと、遠い将来、大容量のデータの詰まった媒体はあるが、再生ができなくなってしまうということになりかねないので(笑)。

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