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前田知洋の“タネも仕掛けもあるデザインハック” ― 第5回

iPhoneやAndroid、モバイル機器の重さの秘密

2012年11月23日 09時00分更新

文● 前田知洋

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 マジックでモノが浮く。軽いモノが浮くよりも、重たいモノが浮かぶほうが、観客はより不思議がる。たとえば、ビーチボールが浮かぶマジックよりは、美女や自動車が宙を舞うほうが凄いマジックのような気がしてしまう。歴史の中でも、ニセ霊媒師による、エクトプラズムと呼ばれる奇妙な物質や霊魂が部屋を飛び交う見せ物が流行ったことがある。

数十gの差を大きく感じる人たち

 話を現代に戻すと、モバイル機器を選ぶときに「〇〇は△△に比べて重いから…」なんて話に必ずなる。確かにカタログなどのスペックを見ると、その重さの違いが明確になる。たとえば「重い」と評価されることが多かったiPhone 4Sは140gで「軽い」と評価のあったiPhone 5は112g。「20%も軽くなった」と評価できるし、筆者が実際に手に取ったときは「確かに、すごく軽くなった!」というのが第一印象。

 しかし、その差はたった28g。大さじ2杯の水の重さとかわらない(大さじ1杯の水は15g)。筆者も含め、人はなぜ日常生活では気にとめない僅かな重量の違いを、モバイル機器の場合は大げさに感じるのだろうか。

モノの形やサイズが重さのイメージに影響する

 次に紹介する「重さの感覚に関わる実験」は、写真を見たり、読むだけでは理解しづらいので、デザインやマジックに興味のある方はぜひ実際に試して下さることをお勧めします。使うものは、身近にあるものばかりです。

 マッチ箱でも、ホチキスの針の箱でも、何でも良いので同じ種類の空箱を2~3つ用意します。片手で持ち上げるサイズの箱が適しています。そのひとつに、十円硬貨を一杯にいれます。ホチキスの針の箱なら14枚ほど十円硬貨が入るはずです。他の箱は空にしておきます。

 その2~3の箱を重ねてテーブルに置きます。十円硬貨の入った箱を一番上にしておきます。すべてをまとめて片手で5秒ほど持ち上げ、重さの感覚を覚えておきます。次に一番上の箱(十円硬貨の入っている箱)だけを同じように5秒ほど持ち上げます。

 そうすると、奇妙なことに1つの箱だけを持った場合のほうが、ずっと重く感じます。本来であれば、空箱の重さの分を軽く感じるはずが、そうはなりません。このマジックのような実験は、国立教育研究所に勤めていた板倉聖宣さんが著書『科学的とはどういうことか』で紹介されているものです。

 板倉先生の調査実験によると箱が3つの場合と1つの場合を比較して、同じ重量でも1.5倍から2倍の重さを人間は感じるという結果を本書のなかで述べています。

小さく、薄く見えるデザイン、エッジの鋭いモノは重く感じる

 この実験からわかることは、人間は外観が小さく見えるデザインのモノは重く感じること。手に持つ前に見た目によって、脳が重さを想定しているといえる。近年のApple社のジョナサン・アイブのデザインは、薄く見えてるエッジの鋭いものが多い。そうしたデザインは、指先や手の平により重さを感じさせる。

 蛇足だけれど、マジシャンが舞台の上で鳩を使ったのは、ハンカチの中などから鳩が現れたときに羽ばたくことによって、大きく見えたことも理由の1つだ。

カバーを付けると脳は錯覚する

 中には、デザイナーの仕事を尊重するがゆえに「裸族」(つまり、ケースを付けない派)もいるが、もしお持ちのモバイル機器が重いと感じたら、カバーを付けると重さが気にならなくなることがある。写真のiPhone用のカバーは、重厚に見えるが9gしかないプラスチック製。ツタのような有機的なデザインなので雑多な机の上でもよく目立つし、バックのなかでもすぐに探すことができる。こうした重厚なデザインのスマートフォンケースは、持つ人の脳を騙す。脳はカバー+本体の重さを想定しようとするので、実際の重量よりも軽く感じることになる。

 「仕事の席では、ちょっと派手かも…」という場合は、別のケースを使っている。非接触型のカードを収納できる分、厚みが増すのがポイント。これも手に持ったときに、厚みがあり、サイドのエッジが丸くなったぶん、本体が軽くなったように脳は錯覚をする

 ノートパソコンを重く感じる人は、持ち手やショルダーベルトが幅広のものを選ぶと重量が分散されて重さを緩和できる。さらにマチ(厚さ)の大きいものを選ぶと軽く感じやすい。汚れを気にしないなら、ノート用のバッグには黒以外を選ぶのもいい。

 「脳を騙す」というのは、ちょっと背徳的な感覚があるかもしれない。しかし、スターバックスのトール・サイズのラテを一杯飲むと約350gの体重が確実に増加している。そんなことを思えば、モバイル機器の数十g、あまり些細な重さにとらわれると、幸せなITライフはすごせない。少なくとも僕はそう思っている。

 参考資料『科学的とはどういうことか』板倉聖宣著/仮説社

 謝辞:お忙しい中、実験の出典を調べてくださった角矢幸繁さんに感謝いたします。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす魔法のことば』(日本実業社出版)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、(株)ビジスパからメルマガ「Magical Branding-セルフブランド活用法-」を配信中。

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