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最古のSystem zと最新のPureSystemsが同じ部隊で戦うIBM

ビッグデータ対応とTCO削減を謳うIBMのSmarter Computing

2012年11月01日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月31日、日本IBMは「Smarter Computing」のコンセプトをベースにしたインフラ関連技術や製品に関する説明会を行なった。同社のイベント「New Era of Computing」の開催に合わせて行なわれたもので、次世代インフラを支える技術や背景について講演が行なわれた。

日本企業のIT活用はまだまだ不完全

 Smarter Computingに支えられた同社のインフラ系製品には、メインフレームの「System z」、UNIXサーバーの「Power Systems」、x86サーバーの「System x」、ストレージ製品、そして先日発表されたばかりの垂直統合型コンピューターの「PureSystems」などが含まれる。おおざっぱにいえば「コンピューター」ということになるが、PureSystemsのようにソフトウェアやサービスと統合化されている製品もあるため、定義づけはやや難しい。いずれにせよ、競合との競争やコモディティ化の波を大きくかぶっている分野であり、ソフトウェアやサービスとの統合も含め、どこまで付加価値を提供できるかが大きな課題となる。

Smarter Computingを実現する価値とテクノロジー

 発表会に登壇した日本IBM 代表取締役 社長のマーティン・イェッター氏は、CEOへのインタビューをまとめた「IBM Global CEO Study 2012」をひもとき、ここ3~5年で自社でもっとも影響を与える外部要因が、「テクノロジー」になったと説明した。「長年、重視はされてきたが、今年はじめて1位に躍り出た」(イェッター氏)。一方で、日本企業の調査結果は、市場の変化、グローバル化、人材・スキルに次ぐ4位となっており、ITを決して最重視していない結果が浮き彫りにされたという。イェッター氏は、「IT活用が進まず、競争上不利になる可能性がある」と警鐘を鳴らし、一層のITの活用が重要だと訴えた。

日本IBM 代表取締役 社長のマーティン・イェッター氏

 なぜITの活用が重要になるのか? イェッター氏は、ケータイやインターネットの利用者、メール数、センサー数などが著しく増え、世界の「スマート化」が急速に進んでいる状況があると指摘した。また、その結果として、「たった2日間で2003年までに生成された全データが溜まる」「2016年までに1年間のトラフィックが1.3ゼタバイトに達する」「ニューヨーク証券取引所ではセッションごとに1TBの取引情報を捉えている」といったデータ爆発が起こっているという。

 こうしたスマート化やビッグデータに対応するためには、今までのプログラム主体のコンピューターではなく、認識力を高めた「コグニティブコンピューティング」が重要になるとイェッター氏は指摘。そして、コグニティブコンピューティングを実現するインテリジェントなコンピューターとして、自己学習や卓越した言語処理能力を持つWATSONのプロジェクトを挙げた。

ビッグデータを見越したコグニティブコンピューティング

System zとPureSystems

 続いて、日本IBM 取締役執行役員 テクニカル・リーダーシップ担当の宇田 茂雄氏が、「Smarter Computing~新しいコンピューティング時代に向けた次世代インフラへのアプローチ」と題して、インフラ系製品のテクノロジーについて詳説した。

日本IBM 取締役執行役員 テクニカル・リーダーシップ 宇田 茂雄氏

 宇田氏は、イエッター氏が指摘した情報爆発やコグニティブコンピューティングとは異なった運用管理コストの増大やセキュリティという観点で、Smarter Computingの必然性を説く。サーバーの価格性能費は上がっているのにもかかわらず、管理コストや電力・冷却コストが上昇し続け、仮想化によるメリットも得られていないのが現状。これに対して宇田氏は、「85%が稼働していないCPUの非効率性を解消したり、必要なリソースを迅速に提供する方策を考え、管理コストの削減を図る必要がある」と指摘。これを実現するためのコンセプトがSmarter Computingになると説明した。年間6000億円の投資により、開発されているSmarter Computingでは、ITの効率化とサービスの迅速な提供を実現する「クラウド」、行動につながるリアルタイムな分析を実現する「データ」、脅威やコンプライアンスの対応を実現する「セキュリティ」、そして「ワークロード最適化によるコストの削減」という4つの技術を組み合わせることで、ユーザーのビジネスニーズに応えるという。

会場に設置されていたSystem z

 同氏がSmarter Computingの筆頭として挙げたのが、48年の歴史を持つメインフレームの「System z」だ。レガシーコンピューティングの代表格と言われるメインフレームだが、System zは特に2000年以降めまぐるしい成長を遂げている。宇田氏は、「ゼロダウンタイムのzなので、とにかく堅牢。しかも最速。5GHzのチップを商用化しているのはIBMだけで、しかもzだけ。シングルスレッドのハイパフォーマンスには特にこだわっている」とアピールする。また、35年におよぶMTBF、仮想システムごとの独立性によって実現するセキュリティ、なにより顧客のIT資産であるプログラムとデータを守って基幹システムをサポートするという本来の役割を重視しているという。「コンパイルが必要ですが、48年前のCOBOLのプログラムが今でもきちんと動きます」(宇田氏)。

メインフレームのSystem zの進化

専用プロセッサーや他システムをミドルウェアで隠ぺい

 さらに最近では、専用プロセッサーや他のプラットフォームのシステムをミドルウェアの裏側に配置し、アプリケーションから見て単一のシステムに扱うことも可能になっている。「UNIXだけではなく、Linux、Windowsまで統合管理できる」(宇田氏)とのこと、同日発表されたイズミヤでの基幹システム刷新事例でも、分散したサーバーをzEnterpriseに統合することで、大幅なTCOやスペース削減を実現していくという。

 そして、宇田氏がもう1つ挙げたのが、4月に発表された「PureSystems」だ。PureSystemsは業務インフラの導入短縮や管理の自動化を実現する垂直統合型のコンピューターで、ハードウェア、ソフトウェアを統合するだけではなく、設定や構成までをIBM側で施して出荷する。現在、IaaS部分を提供する「IBM PureFlex System」とアプリケーションまでを含む「IBM PureApplication Ssytem」の2製品が提供されている。さらにPureDataと呼ばれるデータベースマシンも用意され、DB2 pureScaleによるトランザクション処理、Netezzaによるレポートや分析、ISASによるオペレーショナル分析など用途から選べるという。

アプライアンスとは異なるコンセプトを掲げるPureSystems

 宇田氏が、PureSystemsについて、「もともとの発想はブレード。4~5年前に、新しい用途で使え、導入作業やミドルウェアの構成を自動化する次世代のブレードサーバーとして考えた」と説明。その後、インフラの自動化や導入期間の短縮を目指して、改良を進めたという。宇田氏は、PureSystemsの方向性について「アプライアンスとはやや捉え方が違う。アプリケーションのオーダーに合わせてインフラを自動生成する機能があるので、より汎用性を持っていると考えている」と説明した。「アプリケーションがインフラを定義する」という点では、業界の多くが向かっている方向であり、それをいち早く製品化したIBMの先進性は、評価するに値する。

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