快適さ重視で「ファンの場所」を最初に決定
組み立て用治具も「CAD」で同時に設計
鈴木一也氏はDuo 11を設計する上で、最初に決めたのが「ファンの位置だった」と明かす。それは、快適に使うためにどうしても必要なことであったからだ。
鈴木(一)「ファンの排気口の位置を最初に決めてしまいました。なぜなら、手に持った時に排気が直接手に当たると、不快だからです。正直選択肢は少なくて、『結局ここしかない』という位置に決めた、というところです。我々もノートPCのクーリング設計はかなり経験を積んできていていますので、『これで大丈夫』という自信はありました。基板自体が特殊な形状になっていまして、ファンがすっぽり入るようになっているのです」
鈴木(一)「他方で、今回はCPUの動作設定に『コンフィギュラブルTDP』※1を採用しています。電源プランが性能重視の『パフォーマンスモード』の場合でも、タブレットモードの際に表面に熱が上がってこないよう、自動的にCPUの動作設定が変わるようになっています」
※1 製品の特性に応じてTDPの設定を上下に変更する機能。TDPを下に設定して消費電力を下げたり、上に設定して一時的に性能を向上させることが可能。
こういった構造を採ったがゆえに、組み立てはもちろん、いままで通りの方法ではできない。ソニーイーエムシーエスで製造を担当した出井 亮氏も、そこで頭をひねったという。
出井「堀田君の言ではないですが、僕たちもこれを最初にみた時に『どうやって作るんだろう』と正直思いました。今までの作り方が通用しないのです。これを効率良く、オペレーターが短時間で正確に製造できるようにするか、いろいろと相談しながら努力しました」
出井「例えばVAIO Zなどでは、本体を裏返してそこにパーツを組み付けていく手法をとっています。しかし、Duo 11は特別なヒンジを採用しているので、そういう作り方ができません。首(ディスプレー部)がついてしまうと、ひっくり返して収納できるようになっていないのです」
出井「そこでどう組み立てるか? 結果としては、なるべく従来とは組み立て方を変えずにやった方がスムーズだ、という結論に達しました。そこで本体を斜めに支えて、ケーブルを引き出す治具を作って対応しました」
出井「今は治具自身も、3D CADで設計しているんです。そこで製品のCADデータと治具のCADデータを合わせて、仮想的に『どう組むか』をシミュレーションしながら、組み立て工程を作っていきました。そうした工程は、2008年くらいからやっています」
鈴木(一)「我々設計陣が構造を考えているのと同時に、こういう製造の話も始めるので、製造のリードタイムを短くするには大きく効いています。設計に生産のチームが参画する仕組みが整っているわけです」
PCに対する低コストへの圧力が強い現在では、Duo 11のような特殊な構造の製品を作るのはリスクが大きい。そのため多くのメーカーは、無難な構造を採りがちだ。だがソニーの場合、設計のリードタイムを縮める組織ができているため、構造面でのリスクを採りやすい、という事情があるのだろう。
製品の使い勝手については、もちろん店頭などで確かめてほしい。だが、こういう「攻め」の製品が作れる企業がまだ日本にあり、世界に対して提案できるという点については、やはりうれしいことだと思うのだ。
Windows 8はパソコンの「形」に変革を迫っているが、それを支えるには、今までとは違う生産の形も必要とされている。そこに対応できる企業は、そう多いわけではない。
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「災害時ケータイ&ネット活用BOOK」(共著、朝日新聞出版)、「形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組」(エンターブレイン)、「リアルタイムレポート デジタル教科書のゆくえ」(TAC出版)、「スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場」(アスキー・メディアワークス)、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)。 最新刊は「ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ」(朝日新聞出版)。
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