四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第103回
技術と設計のプロが作ったオーディオブランド「Olasonic」
PCスピーカーに“革命”起こした、元ソニーのピュアオーディオ屋
2012年10月13日 12時00分更新
我々は設計屋なので、どうやったら音が良くなるかは知っています
―― この新しい小さいの(TW-S5)、笑っちゃうくらい音がいいですね。一体どうなってるんですか?
山本 値段は8800円ですけど、できることは全部やりましたから。
―― またサイズの割にずいぶん重いですね。
山本 このスピーカーの口径は5cmなんですが、マグネットの口径は5.5cmなんです。
―― ああ、なるほどマグネットが重いんですね。気合い入ってますね。
山本 スピーカーの口径よりも大きいんですよね。前(TW-S7)より容積が小さくなって、音量や低音が十分確保できない。回路でやろうとしたんですが、なかなかうまくいかなくて、最終的にはマグネットを強化したんです。
―― USBバスパワーの電力不足をキャパシタで補っているわけですが、これは最近良く言われる電力需給の話で言えば、夜間にたくわえた電力を昼間使う、みたいな話ですよね。
山本 そうですね。音楽というのは、いつも大きな音が出ているわけではないんです。常に変化している信号なら、貯めておく余裕がある。そうやって充放電を繰り返しながら、合計20Wという音が出るんです。
―― では、この10W+10Wは連続しては出ないということですか?
山本 いえ、連続して出ます。音楽なら。
―― 最近の音楽は音圧競争になっていて、信号レベルはピークに張り付いたままという音源も多いですが、それでも大丈夫ですか?
山本 ぜんぜん大丈夫です。サイン波のような単一信号を入れたら1W+1Wしか出ないんですけど、音楽として聴こえるような信号であれば、実際のピークは少ないんですね。
―― この音の良さにはそのピークパワーが効いているんでしょうか?
山本 そうです、瞬発力があるんです。
―― パワーが入ればエンクロージャーにも強度が要るはずですが。
山本 それは、まず、このタマゴ型ですね。これが四角いプラスチックの箱だったと想像してもらえば分かると思うんですが、押せばペコペコ音がするはずです。でもタマゴ型は破裂しない限りヘコまない。箱が振動してしまうと、音も濁ってしまうんです。それとスピーカーの中の定在波。結構、中で鳴っている音が外に聴こえるんですが、そういうのがない。
―― 内側も曲面になっているので乱反射するから定在波も起きにくい、ということですね。
山本 そうです。もうひとつは、表面の形。これに使っているのと同じアンプとスピーカーユニットで、同じように四角い箱で作ってみたんですけど、全然音が違う。まっすぐ出てくる音、と、表面に反射して遅れて出てくる音が混ざってしまう。それが音の濁りになるんですけど、卵型の場合、反射音は全部別の方向に行ってしまうわけです。
―― 高級スピーカーでもアールの付いたものはよく見ますよね。
山本 みんなそこを工夫しているんですね。ただ、大きなサイズのスピーカーだと材料が木になります。するとこういう卵型に作るのが難しい。でも、こういう小さいスピーカーなら、プラスチックが使えるわけです。
―― 逆にプラスチックでもっと大きなスピーカーは作れませんか?
山本 プラスチックでは大きすぎるスピーカーは難しいです。
―― 小さなユニットをたくさん並べるというのは?
山本 音源は一点の方が良いです。プロジェクターの絵でもピントが合っていないものは、すごく気になりますよね? 耳もそうで、ボケているのとクッキリしているものの違いはよく分かる。音のピントが合っていると、どこに楽器があるかはっきり分かるんです。その音のピントは音源が小さいほど合うんですが、小さい音源は簡単に安くできるんです。
―― つまりプラスチックの小型スピーカーなら、安くいい音で作れるということですか。
山本 そうですね。我々は設計屋なので、どうやったら音が良くなるかは知っています。そういうノウハウを入れられるものというので、PCスピーカーを選んだんです。今までPCスピーカーにはハイファイオーディオのノウハウが入っているものは少なかった。
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