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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第34回

NHN Japan舛田淳氏インタビュー

「友だちの友だちは友だちではない」LINEが先取する電話の未来

2012年09月05日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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友だちの友だちは友だち“ではない”

―― 先ほどSkypeを例に挙げました。国際電話を代替するものであれば、欧米というのはまず押さえなければならない市場ですが、LINEは電話帳をベースにしつつも、Skypeをはじめ従来のSNS系サービスともかなり異なる存在です。LINEによって形成されるユーザーごとのソーシャルグラフは物理的にも小さなものに留まっているように思えます。

舛田 「SNSと呼ばれるインフラ系のサービスは、『1人のユーザーを世界中のユーザーと芋づる式につなげよう』という指向だったと思うんです。友だちの友だちは友だちだ、という感覚ですね(笑)。新しい出会いがそこにはある、それがインターネットの無限の可能性だ、といった具合に。我々ウェブサービスを手がける人間は半ばDNAとしてその指向が組み込まれています

 わたし自身、そのメリットを享受してきたわけですが、LINEが目指しているのは、どちらかというと真逆のコンセプトです。“手の届く範囲の人たちともっと深く”コミュニケーションを取りたい、という思いがあってもおかしくないだろうと。

 実際そういう関係だからこそ、電話だったりメールがコミュニケーションの手段になるんだと思うんですよね。そして、どちらがよりアクティブかといえば……普段から日常生活で話している人たち同士のほうが、別に特別な目的がなくても会話が成立しますよね? つまり、LINEにおいては友だちの友だちは友だちではないという考え方なんです」

―― 面白いけれど実態に即していますね(笑)

舛田 「極論すれば、それは何の関係もない人なんです(笑)」

―― LinkdInなどは、知り合いの知り合いをいかに拡げてビジネスチャンスにつなげていくか、というのがコンセプトの中心にありますが、LINEはまったく異なりますね。

舛田 「人脈形成サービスでもないですね。現在その人が持っている人脈を単に可視化しているだけです。日常生活にLINEというツールを持ち込んでみたら『ああ、こういう相関図になっていたんだ』というのが見える、ただそれだけですね。そこから新たな関係が生まれるものではない」

―― 現在の人脈のみを可視化するといったサービスはこれまでなかったのでしょうか? “ローカルグラフ”を強みだとするmixiが真っ先に思い浮かぶわけですが。従来のチャットやメッセンジャーサービスとの違いも気になるところです。

舛田 「形としてはメッセンジャーの形式は取っていますね。ただ少し考え方が異なるのは、ただ単に『誰でも良いから喋りましょう』というものではない、ということです」

―― 確かに従来のチャットは、まったく知らないユーザーから呼びかけられることもありました。

LINEの場合、登録時に電話帳を元にした友だち関係が構築される

舛田 「そうです。さらに、そこでのやり取りからお互いにIDを交換し合うなど、新たに関係を構築しなければならない。

 mixiさんはもしかすると我々と考え方は同じかもしれないのですが、PCベースのサービスからスタートしていますので、“学校”“趣味”といった関係性を手がかりにソーシャルグラフをイチから構築していくことが前提となっているわけです。それを“マイミク”と呼んでいる。

 そこで生まれる関係性は、日常生活を可視化したものとは異なるものもあった。そのお陰で新しい出会い、コミュニティへの参加という新しい価値を生んだのですが、私たちは“電話帳”が日常的にコミュニケーションを取る一種の“距離感”だろうと考えたのです。

 LINEを始めた人は、(友だちを招待するなど)特段何かをしなくても、普段使っている電話帳をベースにコミュニケーションをすぐに取ることができます。すでにソーシャルグラフが、そこにはあるわけです」

―― “ニアリーイコール電話帳”であるけれど、ネットの技術を使うことで、よりコミュニケーションを深化させることができる。拡げるのではなく。

舛田 「そうですね。人間関係の分類からLINEはスタートしているので、『チャットをやりましょう』というところからのスタートとは全然違います」

プラットフォーム化により拡張されるLINE

―― とはいえ、今回のプラットフォーム化の発表で、LINEには他社提供のものも含め、アプリやサービスが付加されていく計画ですよね。となれば、段々と従来のSNSが持っていた機能やソーシャルグラフの特徴を備えていくことになるのでは?

舛田 「まさに、いま拡張しようとしていますね。コアバリューは“手の届く範囲の人たちとのチャットでのコミュニケーション=電話帳をベースにしたコミュニケーション”というのはこの先も変わりません。ただ、この先のコミュニケーションの在り方としてタイムラインがあったり、ホームという自己表現ができる場所を設けます。これはユーザーのニーズに応じて使い分けていただければと。

 コミュニケーションの拡張をそこで図ってもらえればと考えていますが、そこ(新たに設けられたタイムライン)でも“友だちの友だちは友だちではない”というコンセプトは変わりません。あくまで“私の友だち”しか見えません。

 ただ、将来的に、まだ何の計画もありませんが、何らかのインタレストグラフのようなものも作りたい、ということがあり得るかもしれません。ユーザーに話を聞いても、同じ趣味嗜好を持つ人たちとのコミュニティーを持ちたいというリクエストは非常に沢山いただきますので。派生・関連サービスとしてそういったものの可能性は否定しません。ただし、それをLINE本体に標準機能として持つかというとそれは別の話です」

プラットフォームの「LINE Channel」では、ショッピング、ゲーム、クーポンなどのサービスが提供される

―― あくまで別物、プラスオンされるもの、ということですね。

舛田 「そうですね。元々プラットフォーム構想のプロジェクトコードは『LINE+』だったんです。LINE自体のコアバリューはそのままで、いかなる要素・サービスを足していくか、つまりそれはある種プラットフォームになる、ということであろうと」

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