あいつは本当に、イヤなやつ!
──あちゃあ、面倒なところに来ちゃったな。
ファイルケースを小脇に抱え、私は思わず足を止めた。
あまり人目に付かない特別棟の隣の中庭、背の低いツツジの向こうに男女二人の生徒が向かい合っている。話している内容までは聞き取れないけど、女の子のほうが俯いて肩を震わせ始めたので、何が起きているのかはなんとなくわかった。
……あら、女の子は確か一年生の小川さんだわ。入学当初からすごく可愛いって有名だった子。そんな子を泣かせて、なんて罰当たりな……と普通は思うんだけどね。
「あれ、葵さん?」
中庭に入りづらくて私はこそこそ植木の陰から様子をうかがっていたんだけど、男子生徒がこっちに気づいたらしく声をかけてきた。少しは空気読みなさいよ!
「赤司君、もうすぐ委員会が始まるからなるべく早く戻ってきてね」
こうなったら私もできる限り事務的に用件を言うしかない。あとは一刻も早くここから立ち去るまでだ。だって小川さん、泣きながらこっちを睨んでるし……。
「待ってください、葵さん。一緒に会議に行きましょう」
「ちょっと、話しかけないでよ!」
「そんな、半年一緒にクラス委員をやった仲じゃないですか」
「仲とか言わないでよ気持ち悪いわね!」
だが奴……赤司は中庭に背を向けて走り出した私を追いかけてきた。あんた小川さんはどうしたのよ。女の子泣かせたんだからアフターフォローまでしなさいよ。
「会議の予定は昨日言っておいたじゃない! いくらおモテになるからって、仕事はやってくれないと困るのよ」
「それは彼女に言ってください。僕はいきなり呼び止められただけです」
「……で、今回はどんな理由で振ったって?」
「付き合ってくださいと言われたので、秋葉原でパーツ屋を回ってついでにゲーセンに寄っていいなら、と答えたらいきなり泣かれました」
「当たり前じゃ!」
思わず私は叫んだ。こいつ、つくづく女の敵だわ!
この男、見た目だけはいいのよ。学年で五本指に入る長身、髪はさらさらで顔はすっきり整ってる。しかも不動の学年首席でクラス委員。校内はおろか他校にもファンが大勢いて、ファンクラブが派閥争いをしてるっていうから呆れてしまう。
私は赤司と一緒にクラス委員をしているせいで話をすることも多いから、よく羨ましがられる。「誰か好きな人がいないか聞いてきて!」なんてしょっちゅう。
でも中身はこの通り性格最悪。もし意中の相手を聞き出せたならまずその哀れなお嬢さんに警告するわ、……このバカから逃げなさいって。だいたい高校生男子が同級生に敬語っておかしいでしょうが。
「……とっ!?」
いきなり足元がふらついた私は、後ろから伸びてきた赤司の手で支えられた。
その仕草は洗練されてまるで劇中の王子様みたいだった。私じゃなくて、せめて最後に小川さんにこのくらいやってあげなさいよ。それに、
「気をつけてくださいよ。僕だけ面倒くさい会議に出るなんて嫌ですから」
「あ、あんたなんかに助けてって言った覚えはないわよ!」
我ながらなんという不覚、この男に隙を見せてしまったわ!
この杜ノ宮高校はいわゆる名門校で、進学実績ナンバーワン、各界に著名人を多数輩出、生徒は金持ちのご子息ばかり……なんて凄いところ(生徒である自分が言うのも何だけど)。赤司はその中でも頭ひとつ抜けていて、しかもこのお顔。いったい天は何物をこの男に与えたのかって感じ。
頭がよくて運動もできるっていう秀才はこの学校には多い。でもこの赤司はその全部を余裕綽々って顔でやってみせる。加えてこのお顔。
私、田中葵もこいつと同じAクラスのクラス委員だ。……学年二位の。
残念ながら私は努力してやっと上位を維持している凡人で、こいつにただの一度も勝てたことがない。それはこいつが嫌味たらたらだとかいう以上に悔しいことで、だから、
──私は、こいつが嫌いだ。
登場人物紹介
田中葵
頭脳明晰、才色兼備の優等生。クラス委員を務める。同級生の赤司を一方的にライバル視している。がんばり屋だが、意地っ張りな性格。一見完璧に見える彼女には、実は意外な欠点が……?
赤司
葵の同級生で、成績は学年1位。女子生徒に人気がある。口調は丁寧で紳士的だが、少々世間とズレている面も。デジタル全般に強い。葵と同じくクラス委員。
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