「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い
「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【後編】
2012年07月14日 12時00分更新
仕事は地道でつらい、だけど作品ができあがっていくのは本当に楽しい
―― 「銀翼のファム」の監督をやってよかったと思うのは、どんなところですか。
千明 シリーズ第2弾を作ることができたのがうれしかったですね。あと、GONZOでここまでできた、これ以上はできなかったというラインがよくわかったということです。
新しいスタッフと出会えたのもうれしかったです。たとえば3Dエフェクト。3Dは作る人の技量によって出来上がる映像が全く違います。今回は、非常にうまい方々に出会えて。3Dのうまさというのは、たとえば雲だったら、飛んでいる機体が雲に触れた瞬間に雲が空気に押されてふわりと舞う様子とか、そういう細かい表現に技量差が出る気がします。
“雲海を突き破るクラウディア戦艦の船体を流れる雲”などが気持ちよく動いたりするとワクワクして、本当にうれしくなります。
声の役者さんも、2003年の「LASTEXILE」のときには、喜多村英梨さん、花澤香菜さんといった、初めて声優の仕事をしますという子役の子が何人もいました。そして8年経った今回の「ファム」の作中に、「LASTEXILE」のキャラクターを出すことになって、アフレコスタジオで演じている彼女たちを見て「ああ、立派になったなあ、上手になったなあ」って本当に思いました。成長した娘を見ている感じですごくうれしかったです。
そうした数多くの出会いがあったのは、「ファム」をやってよかったことですね。どの作品をやっても毎回そうです。描き手でも役者さんでも、誰かしら新しい人に会えて、またご一緒させてくださいねって言える人がいるというのは本当に幸せなことだと思います。
―― 「ファム」の作品作りの中で、こだわったのはどんなところですか。
千明 「ラストエグザイル」シリーズは、異世界ファンタジー的な作品ですけど、僕は作品の中に「生活空間」をつくることが好きです。
たとえば、ご飯を食べているシーンをきちんと作ると、そのキャラクターたちがどんな暮らしをしているのかとか、人となりが見えてきます。ファムたち空族は、牧畜もしながら暮らしていて、そこで獲れたものを食べている独立心が強い人たちだとか。ファムの相棒のジゼルは、優秀なナビで冷静に見えるけど、家に帰ると小さいきょうだいがいっぱいいて、面倒見の良いお姉ちゃんなんだとわかったり。
そうした表現を積み重ねていくことで、ファムたちの暮らす世界がどんなところかも見えてくるし、ジゼルがいつもファムの世話を焼いたり、助けになりたいと思っていることが表現できたりします。
実は僕はSFもファンタジーもあんまり詳しくないんです。でもなぜか僕に依頼が来る作品は異世界ファンタジーものが多くて。そんな僕がアニメーションという架空のものに、あたかもそのキャラクターがその世界で生きているように見せるために演出をする(笑)。
―― 地道だと言いながら、楽しそうですね。
千明 楽しいですよ。まず、つくる途中が楽しい。編集も、アフレコも、あとダビング作業ってすごく楽しいです。それからできあがる瞬間とか、終わったとき。打ち上げで、ああ、ぜんぶ終わりました、万歳、っていう雰囲気も楽しい。そうすると、次も頑張ろうという気になります。仕事はつらいこともあるけど、それ以上にやっぱり楽しいです。
今回は、きついことがいっぱいあった分だけたくさんの勉強もしました。
スタッフは本当に考え抜いた上で決定しなければいけないこと。「お願いします」と頭を下げるだけでは、人は簡単に動かないし、動けないこともわかりました。頭を下げた上で、ちゃんとメリットも提示しなきゃいけない。その方にとっても、半年とか1年とか、一生のうちの大切な時間を使っていただくことになるわけですから。
そのためには、まず僕が自分で働きかけること。その人や作品のために何ができるか? どういうメリットを与えることができるか? スタッフの純粋な好意に甘えるばかりではなく、ちゃんとメリットも提示して、作品に参加してもらえるように準備をする。それが最低限の礼儀だと、今さらですが理解できました。
本当に色々な試練と経験を与えてくれた「銀翼のファム」という作品でしたが、この作品が、自分にとってだけではなく、GONZOというスタジオや、関わってくれたスタッフみんなの“次”につながったら嬉しいと思っています。
■DVD&Blu-ray 最終巻は7月25日発売!!
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■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
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