「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い
「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【前編】
2012年07月08日 12時00分更新
人のために何ができるかを考え、行動を起こそう
―― 野球とアニメーション作りは似ていますか。
千明 はい。どちらも、「集団でひとつの目的に向かって戦う」感じがありますね。仲間のことを考えたり、ときにはぶつかって言い争ったり、勝ったらみんなで喜んだりと、人と人とのつながりが感じられる。それで、アニメの現場でもみんなで野球をやったら「チーム」になれるんじゃないかと思ったんです。
僕がアニメの現場で野球部を立ち上げたのは「ドルアーガの塔」の打ち上げがきっかけでした。それから“GONZO野球部”として、3年経った今でも活動が続いていたりします。それで「ファム」でも野球部を作ろうと思って、総作画監督をやってくれた高岡じゅんいちさんに監督を引き受けていただいて、メンバーを集めたりもしました。
―― 野球部作り、現場への作用はいかがでしたか。
千明 “ファム野球部”は残念ながら結成までには至りませんでしたけど、ふだんから一緒にキャッチボールをしている若い子たちが、一所懸命仕事をしてくれて、「ファム」を助けてくれました。野球部のメンバー以外にも、「LAST EXILE」シリーズを好きでいてくれるスタッフにも助けられましたしね。そういうことがうれしかったです。
……「ファム」のテーマは、「人のために何ができるかを考え、行動を起こそう」というところに設定したんですね。
「ファム」の現場に当てはめるなら、かつてGONZOに所属していたけれど、今は離れてしまったスタッフ。ここ数年の間に所属したGONZOの新しいスタッフ。今スタジオで机を並べているフリーのアニメーター。若い制作スタッフ、そういう人たちと一緒に「銀翼のファム」という作品を作る。作品を通して、同じひとつの方向に向かえればいいなと思ったんです。
―― 「ファム」ならではの、人との出会いはありましたか?
千明 新しい良いスタッフとの出会いもありました。たとえばシリーズ構成※の吉村清子さん。良い脚本家さんは“数学脳”を持たれていると聞きますが、吉村さんは、エピソードの1つ1つに筋を通して論理的に物語の中に組み込むことに長けていて、すごく頼りになりました。僕のふわっとしたイメージや甘い部分を吉村さんに全部補ってもらいました。
アデス連邦周りやルスキニア(『ファム』に登場)のキャラクター造形は、完全に吉村さんが作ったものですね。やっぱり“試合”はひとりではできなくて、みんなの力が必要で。ひとりひとりが力を出し切ることが大事なんだなと思います。
※ シリーズ構成: アニメーションのTVシリーズなどで、全話数を通した物語の筋を決めたり、複数の脚本家が書いたストーリーを、作品の大筋に合わせて調整する役職
―― 千明監督ご自身は、野球で言えばどんなポジションにあたると思いますか。
千明 文字通り、全体を采配する「監督」ですね。その上で、自分でもプレイをする「プレーイングマネジャー」でありたいです。自分自身も、絵コンテを描いたり、脚本を書いたり、音響監督をやったりと、各パートの一部を担当する「プレイヤー」でもあるという。自分でもプレーするのは、もちろん良い試合になるようにと思ってなんだけど、ときには大変なことになることもあったりします。
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