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ネットから世界に羽ばたく20代の“プロ絵師”たち

2012年07月21日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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「仕掛ける」ではなく「バランスを見る」

―― ここまで、初音ミクを描いている「絵師」の3人にお話を伺ってきました。初音ミクの発売元であるクリプトンの佐々木さんにお伺いしたいんですが、最初からイラストの使用権をユルくすることで流行らせていこうという狙いがあったんでしょうか?

佐々木 心情的には……ぶっちゃけライセンスの部分は企業からの商業案件が出てきた時点での後付けです。初音ミクのリリース当初、僕がブログに高解像度のJPEGをZIPで置いて「使ってもらえるなら使ってください」と言ったら、「なんて寛大なんだ!」と言われて。「あ、そういうものなんだな……」と。

初音ミク。イラストの二次利用などライセンスにまつわるところは「ぶっちゃけ後付け」だったという


―― まったく狙ってないですね(笑)。自然にそういう発想になるのが不思議です。

佐々木 その辺の権利に対する考え方は、自分がクラブミュージックが好きだったからかなと。リミックスをして、レコードにクレジットも載せず、プロモーションオンリー盤として世界流通に乗せてしまい、お店のほうで「これは誰が誰をリミックスしたもので、レーベル名は白いけど内容はいいんだ」みたいな、独特の海賊文化みたいなものにふれていたところがあったので。当然そうやって広まるものだろうと思っていたところはありますね。初音ミクが作って広がる前の段階までは、自分としてはなんでもいいなあと。


―― ちほさんの「誰かのための絵」という発想もそうですが、「ガチガチに作品の権利を守られた作家先生」というよりは、作品がネタにされることが分かっている、リミックスありきのDJやトラックメーカーのような感覚ですね。

佐々木 元祖DJカルチャーみたいなものは、自分たちや、自分たち(20代~30代前半)より1~2個上の世代って感じがしますが、ストリートカルチャーは「お芸術」より風通しが良かった気がします。いわゆる“守られてる作家”の世代ってのはやっぱり団塊世代周辺とか、そのくらいだと思うので。そういう先生方はずっとそれで食べてきたし、死ぬまで(著作権を)守られたいわけじゃないですか。そういうのと自分たちはちがうというか、下の世代をフォロワーにして、神輿に上がりたいという感じはあまりなくて。


―― 初音ミクはそういう新しいタイプの作家たちに振られた大ネタだったんだと。とはいえこれだけ人気になると商品化やライセンスまわりの話も多いのではないかと。

佐々木 最近、妙に仕事の量が増えてるんですよ。GoogleのCMが流れたあと、新規の企業や代理店から連絡が来るってのもけっこうあって……。前だったら、ニコニコ動画とかが好きな担当者で、作曲者やイラストレーターさんにも詳しい方が連絡をくれる場合も珍しくなかったんですけど、最近の企業や代理店は「いろんな人いますよね、でもどうしたらいいのか分からないから教えて」みたいな連絡があったりして……。

Google ChromeのCMに初音ミクが起用された。CMソング「Tell Your World」は、iTunesランキング初登場1位を獲得した。CMそのものはカンヌ国際広告賞で銅賞を受賞、現在もYouTubeで公開中

―― ぶっちゃけ丸投げが増えていると。

佐々木 まあ、作家さんのお仕事が増える分には良いんですが、葛藤もあって手探りで進めてます。逆に、アースさんの展開は、コンセプトがはっきりしていて、まとまり感があるじゃないですか。コンセプトを分かりやすく切り取って、自分たちがねらったターゲット層に落とし込むには現場に“わかっている”方がいるのが理想的なんだと思いますよ。


―― 仕掛けるのが難しい。佐々木さんが「狙ってなかった」こともそうですけど、仕掛けって言葉があてはまらないかもしれないですね。

佐々木 仕掛けるっていうよりバランスを見るって感じなんでしょうね。皆さんの反応を見て、レスポンスやカウンターを考えるバランスが一番のポイントですし。

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